四つの視点(第36回) 今月のテーマ「なぜ起こる? ISO9001取得企業の品質事故」
トップマネジメントの熱い想いと社員への周知
コンサルタント(2)/(株)新環境経営研究所 シニアコンサルタント 西村 仁 氏
QMSは、「仕組み」と「技術力」の双方が必須
品質事故や品質不良が発生するのには、大きく二つの要因が考えられます。一つは品質マネジメントシステム(以下QMS)の完成度が充分でなく不良品が外部に流出してしまう場合であり、もう一つはQMSが決められたとおりに機能しなかった場合です。
前者では、品質事故や品質不良には仕組みの中の「レビュー・検証」「不適合製品の管理」や「是正処置」「予防処置」などで対応していますが、この中身はその企業が持つ技術力です。問題が発生した時に、表面的な原因ではなく、真の原因を追究した上で最良の対策を打てているか。また設計・開発時にいかに事前に不良を予測して、不良が発生しない商品、製造ラインを作るかはまさに技術力です。ISO認証では、品質保証に加えて顧客満足の向上のための「仕組み」を対象としており、この「仕組み」に埋め込まれる「技術力」に関しては対象となっていません。技術力の判断は、その会社でしか下せないからです。
一方で技術力が高くても、それを活かす仕組みがなければ様々なモレが発生し、不良や事故につながってしまいます。すなわち、仕組みと中身(技術力)が揃ってはじめて威力を発揮するわけです。ISO9001認証取得企業がこの努力を怠れば、問題を発生させてしまうリスクを常に持っていることになります。
品質不良の中でも特に難しいのは、出荷時には合格判定していたのに、顧客の手に渡ってから不良品となる場合です。徐々に品質劣化が進み事故を起こす場合や、設計開発段階の前提条件よりも厳しい条件下で顧客が使用したために破損した場合などです。これらは製品設計や製造工程設計の段階で品質を作り込むしかありません。
設計・開発の「レビュー」では、故障モード影響解析(FMEA)注) などの手法を用いて事前評価を行うなどの対応が必要とされます。
一番難しい社員への周知徹底
次にQMSが決められたとおりに機能しなかった場合を考えます。昨今多発している欠陥隠しなどもこれに該当し、そのほとんどは「人の行動」に原因があります。なぜ決められたことを守れないのか。それには原点に戻る必要があります。QMSを運用する上で一番重要なことは、トップマネジメントの方針や熱い想いが、全社員に浸透し周知徹底されていなければならないということです。浸透が必要なのはQMSに限らず、企業倫理、会社理念、内部統制など多岐にわたります。
ところが、これがもっとも難しいことなのです。社員の数が多くなるほど経営層と社員との距離が離れてしまいます。ではどうすれば良いのでしょうか。先日トヨタ自動車の経営者とお話しする機会がありました。そのお答えは、「社員がこれらをすべて理解しているとは言い切れないが、必ず理解しているはずだといえるレベルまでのことは会社として実行している。経営層が明文化しそれを配布し、コミュニケーションにより伝える。そして理解の確認のために配った文書にサインをしてもらう。そこから先は社員一人ひとりの意思次第である」とのことでした。
昨今は仕事も分業となり、現場の社員は全体を見渡すことができないために、責任感が希薄になりかねません。ほんの小さな品質事故や品質不良でも、インターネットなど情報網の発達により、一瞬にして多くの顧客に届き、想像できないほど大きなダメージにつながることも、他社の実例をあげながら周知することが必要です。
注)FMEAとは、製品設計や製造工程計画の構想を練る段階で、起こる可能性のある品質問題の原因を事前に予測して問題を未然に防止する事前管理の手法です。
<アイソムズ 2006年9月号掲載>

