四つの視点(最終回1) 今月のテーマ「ISO、これからの10年」

四つの視点(最終回1) 今月のテーマ「ISO、これからの10年」

混沌のその先には

審査登録機関/DNV認証事業日本支社 営業部長 前田 直樹 氏


混沌とした現状


最近の日本のISO全体を取り巻く状況は、認証返上の続出とそれによる認証登録総数の減少、認証企業によるデータ偽装や情報漏洩事故の頻発などなど、混沌とした状況に入っている。前者はいわゆる「ISOの負のダウン・スパイラル」論で問題視された事態、後者はISO制度の限界にも関係する重大な事態である。

負のスパイラル論を単純化すれば、“安近短”を望む顧客とそれに安易に迎合するコンサル・認証機関の存在が前提にあるわけだが、そもそもISO審査に価値がないという考えが前提になっている限りこの流れは変わらない。「付加価値審査」を各認証機関が模索し、経営に寄与すべく競い、様々な提案がなされている現状は、形骸化した無用の存在という先の前提を覆す“方向”としては評価ができると見ている。

逆に私が時々驚くのは、ISOがすべてという万能論を論じられる方、また、認証機関側にも新規格が出ると「この規格でマーケットを作る」と嘯く方がおられることである。ISOはマネジメントシステムに対する活動である限り単独で主役にはなり得えない。産業なくしてISOは存在せず、そもそも「ISOビジネス」などという言葉が存在すること自体、事の本質を無視した一種の欺瞞だと感じている。ISO14001、ISMSに関し突出して認証件数の多い日本でなぜこれほどに不祥事が頻発しているのか。こういった楽観論、万能論、傲慢な姿勢も一因であり、後向きな隠蔽行為の真のリスクを理解しない限り本質的な改善は望めないはずである。

一方、現在の認定機関による厳しい指導の方針は、違法な認証機関・受審企業を排除して健全な認定認証制度を維持するという意味では成果を上げており、一定の評価はできる。しかし逆に、前向きにシステムを運用している受審企業や認証機関にも過度の負担を強いて疲弊感をもたらしていることも事実である。いわば「角を矯めて牛を殺す」事態になりかねない懸念は感じる。特にいわゆる「非JAB系」といわれる認証機関が跋扈している現状を放置している限りこういった危機感・不公平感はぬぐえず、早急な是正を求めたい。

この先に限界はあるのか?


ISOが単独で産業をリードすることはないとすれば、ISOの今後の動向を左右するのは他ならぬ産業構造の変化でしかあり得ない。今後のキーワードを絞るならば「クロスボーダー化」「セクター化」「IT化」。それに全体を包含する「認証ポータビリティ制による競争原理導入」ではないだろうか。企業展開はすでに国境を越えており、ガバナンスの観点からも管理の傘を海外まで広げる動きは当然の流れといえる。また産業構造はより階層的・セクター的となり、加えてすべての産業の中にIT化は深く浸透していく。認証機関がこういった顧客の要望に応えていくことは企業のパートナーとして当然の義務であり、応えられない認証機関は衰退の道をたどるしかない。幸い認定認証の枠組みには認証ポータビリティ制ともいえる仕組みが含まれており、より適正で健全な競争原理が働くことを期待したい。

私自身、前職は某重工業メーカーの開発設計屋であり、アイデアと独創を旨とする立場からは、記録と承認を要求するISOの仕組みは、「独創性を摘む」諸悪の根源だとさえ考えていた。それゆえに少し引いた姿勢で全体を俯瞰できたのは逆に幸いだった。

意識の高いコンサルタントや受審企業、監査員との出会いは私の誤解・先入観を払拭するには充分であり、決して楽観論に走らず産業界をよくしたいという彼らの熱意と真摯な活動、構えの大きさがある限りこの先に限界はなく、未来は明るいと信じている。システムに携わる身でありながらあえて「志」という精神論で締めくくったその真意を理解いただければ幸いである。

<アイソムズ 2006年12月号掲載>

ISO研修はグローバルテクノ