特集 食品安全マネジメントシステム ISO22000認証制度 スタート直前ポイント検証!
ISO22000認証制度は年内スタートか!?
食品安全MS認証制度をめぐる国内外の課題と今後
独立行政法人 農林水産消費技術センター 理事
ISO22000システム開発委員会副委員長 湯川 剛一郎 氏
待望のISO22000認証制度は、年内にもスタートする気配が高まった。認証制度の基準となるISO/TS22003が発行され次第、すぐにでも開始できる体制は整っているという。しかし、一方では審査員の確保や規格に対する誤解など、運用面での課題も残っている。ISO22000システム開発委員会副委員長を務める湯川氏に、ISO22000認証制度の現状と今後の課題について聞いた。
ISO22000認証制度は年内開始?!
本誌:最初にISO22000認証制度構築の現状についてお教えください。
湯川:国内の認証制度検討体制は、「食品安全マネージメントに係る認定・審査登録制度の開発委員会(ISO22000システム開発委員会)」として学識経験者、食品関係の主要団体の役員などで組織した委員会を設置し、(財)日本適合性認定協会(JAB)、(社)食品衛生協会、そして(独)農林水産消費技術センターが共同で事務局を務めて検討を進めています。
現在は、認証制度の基準となるISO/TS22003(食品安全マネジメントシステムの監査及び認証を行う組織の要求事項)の発行を待っている状態ですが、ISO/TS22003の引用規格であるISO17021(マネジメントシステムの監査及び認証を提供する機関に対する要求事項)の作業が遅れたため、ドラフト第2版の投票を7月5日締切りとして行っているところです。
その結果を受けて、ISO/CASCO(適合性評価委員会)とISO/TC34のJWG(共同作業部会)が9月に開催され、正式発行が決定される予定です。ISOのウェブサイトでは、ISO/TS22003は9月1日発行予定となっています(6月13日現在)が、おそらく年末近くまでずれ込むのではないかと想定しています。
ただし、国内のISO22000認証制度については、ISO/TS22003の発行後、すぐにスタートできるよう準備を進めています。
本誌:システム開発委員会では、今後どのような点が議論の中心になるのでしょうか。
湯川:ISO/TS22003の内容は固まりつつありますから、今後は認証制度の運用についての議論が本格化してくると思います。
具体的にはJABが認定機関となることが予定されており、また審査員評価登録機関としては(財)食品産業センターが「日本食品安全マネジメントシステム評価登録機関(JFARB)」を設立しています。さらにJABの認定を待たず、ISO22000の審査を開始している審査登録機関も複数ありますから、スタート後の展開は早いのではないかと思います。
ヨーロッパの食品安全から
本誌:あらためてISO22000策定の背景についてお教えいただけますか。
湯川:提案当時の会議に日本は参加していないので詳細はわかりませんが、NWIP(新規作業項目提案)を読むとヨーロッパにおける食品安全体制構築の動きがベースになっていると思われます。
ISO22000(NWIP承認時の規格番号はISO20543)はデンマークから2001年に提案されていますが、ヨーロッパでは1990年代中頃からBSEやダイオキシン問題を中心に食品安全への取組みが活発化しています。欧州食品安全機関(EFSA)の設立(2002年)もこうした動きを受けたものです。したがって、ISO22000もそのような動きの中で一つのアウトプットとして提案されたものと考えられます。
NWIPでは、国際的な食品流通に関して、地域ごとの基準で審査を行う動きが出てきたことが問題として指摘されています。審査基準のばらつきは流通の円滑化を妨げることとなり、かつ、食品安全の水準が地域によって違うというリスクも発生します。
審査基準と安全水準を統一して流通を円滑化し、衛生上の事故が発生するリスクを極力小さくするという流通上の理由と安全上の理由を克服するために国際規格作成に至ったと考えられます。
ISO22000とHACCPの関係
本誌:ISO22000と他のマネジメントシステムの違いについてお教えください。
湯川:ISO22000は、HACCP(危害分析・重要管理点)プラスISO9001といわれることが多かったのですが、実際にはISO9001とはかなり考え方が違い、よりHACCPに近い規格だといえます。特に「7章 安全な製品の計画及び実現」はHACCPの手順そのものです。
ISO22000と従来のHACCPとの違いはマネジメントシステムの要素が加わっていること、特にシステムの妥当性確認が含まれていることがあげられます。これは従来のHACCPには明記されていませんでした。またHACCPプランで管理できないものをオペレーション前提条件プログラム(OPRP)で管理するという概念を明らかにしたことも特徴的です。
本誌:HACCPについては厚生労働省が運営する承認制度がありますが、ISO22000との関係は。
湯川:HACCP承認制度は食品衛生法に基づく総合衛生管理製造過程の承認制度で、一方ISO22000は任意の民間認証制度です。つまり両者はそもそもの位置づけが違います。法律に基づく制度であるHACCP承認制度とISO22000に基づく民間認証制度が相互に補完し合うことにより、わが国の食品の安全に対する信頼性を高めていけるのではないでしょうか。
ISO22000の審査基準は何?
本誌:ISO22000はJIS規格化しないということですが。
湯川:JIS化に関しては様々な議論を行ってきたのですが、現在は具体的なJIS化に向けての動きは聞いていません。
理由としては考えられることは、ISO22000をJIS規格化しなくても認証制度を構築・運用する上で障害にはならないということです。そうであれば規制緩和の時代に、あえて新たに国家規格を制定する必要はないということになります。
JIS規格とJAS規格(日本農林規格)は規制緩和の対象となっており、規格の数を減らすことが求められています。ISO22000に限らず、新しい国家規格を策定する場合には、その必要性が厳しく問われます。
本誌:それでは国内の審査は何を基準に行われるのでしょうか。
湯川:審査はISO22000の原文と、権威ある邦訳に基づいて行われることになります。
現在、TC34/WG8専門分科会が監修した「ISO22000:2005食品安全マネジメントシステム要求事項の解説」(日本規格協会刊)が出版されていますが、同じくTC34/WG8専門分科会監修によるISO22000邦訳版がまもなく出版されるようです。審査に際してはその邦訳版が一応基準テキストになります。
審査員に求められる詳細な業務経験分野と高い力量
本誌:審査員については、以前から高度な力量が求められるといわれていましたが、実際にはどのような要件になるのでしょうか。
湯川:ISO/TS22003のドラフト第2版では、フードチェーンに関連する業務経験が5年以上、うち品質管理に関する業務経験2年以上となっています。フードチェーンの分野については11分野(図1)に細分化され、審査員は分野ごとの業務経験に応じて登録を行うことになります。したがって、たとえ多分野でHACCPの審査実績を積んでいる方であっても、本人の経歴によっては限定された分野でしかISO22000審査ができないこともあり得ます。
ただし、制度スタート当初に必要なISO22000審査員を確保するため移行措置などを設けることについて検討する必要はあると思います。
ISO22000の認証制度を適切に運用していく上でも、フードチェーンでの実務経験がない人が、ISO22000の審査員に登録されることは避けるべきというのがTS22003の考え方です。
本誌:QMSやEMSの資格基準とは違うのですか。
湯川:審査員に要求される力量が決定的に違います。 ISO9001では、規格や組織が決めたとおりにプロセスが動いているか確認することが審査の中心になりますが、ISO22000の場合は組織が採用した管理方法によって法的要求事項や顧客要求事項を達成できるかどうかを確認しなければなりません。
例えば、ある管理方法に対して関連するプロセスをモニタリングするわけですが、そのプロセスがきちんと実施されているかどうかは結果でしかありません。重要なことはそのプロセスやデータをモニタリングすれば法規制などをクリアできることの論理が正しく構成がされているかを確認する必要があることです。
具体的にはHACCPチームの検討議事録などが監査証拠になると考えられますが、審査員はそこから論理が正しいか、その方法で本当に衛生条件を満たせるのか、それを読み取れなければいけません。
決めたことを守っているかどうかを確認することはISO22000審査の一部分であり、管理方法そのものが適切かどうかを審査員が判断しなければいけないということです。
ISO22000とISO9001の違い
本誌:専門性の高さが求められるということですか。
湯川:例えば、「妥当性確認」という要求事項がISO9001にもISO22000にもあります。しかし、その意味は両者で異なります。
ISO9001の妥当性確認は、例えば「乗り心地のいい車」という顧客要求事項があるとすれば、その要素となる運転性能、安定性、室内環境などを客観的な指標として設定し、さらにそれらに関するデータによって要求事項がみたされていることを確認することになります。
一方、「安全な食品」という要求については、一般生菌数、大腸菌群、添加物、残留農薬など、満たすべき客観的な基準については通常食品衛生法などの法令、規制で決められています。これは日本だけではなく、世界中で一般的に採用されている政策手法です。ISO22000の妥当性確認は、管理手段が効果的であるかどうか、法的要求事項を満たすかどうかを証拠によって確認することになります。そのためには法規制の知識、食品製造の知識だけではなく、常識的な微生物学や化学の知識も求められます。ISO22000は、法令、規制による要求事項への適合をより重視しており、顧客志向のISO9001とは重点の置き方が違うことを理解する必要があります。
本誌:ISO22000にはISO9001でいう「設計・開発」や「購買」がないことも、その重点の置き方による考え方の違いでしょうか。
湯川:ISO22000はISO9001の設計・開発を拡大して記述した規格だと思います。
そもそもHACCPは、原料の入荷から製造・出荷までのすべての工程において、あらかじめ危害を予測し、その危害を防止するための重要管理点(CCP)を特定して、そのポイントを継続的にモニタリングし、異常が認められたらすぐに対策を取り解決する、不良製品の出荷を未然に防ぐシステムです。これは食品製造工程の設計・開発そのものだといえます。そして、その製造工程が理論的に議論されて設計されているかを検証するのがISO22000です。
本誌:「購買」については。
湯川:要求事項でいえば、前提条件プログラムの中で原材料を自ら点検することになりますから、自分が信頼できるものを買うべきであり、原材料をはじめとした購買品などの安全性を無条件に信用すべきではないという考え方になります。したがって、あえて購買単独での要求事項は書かれていません。
輸出入にこそ必要なISO 22000認証
本誌:ISO22000の普及も含め、今後の認証制度の展開についてどのようにお考えになりますか。
湯川:HACCP承認を取得している食品業者であればISO22000取得は難しくないでしょう。
ISO22000の動向について様子を見たいという企業も多いようですから、急激に認証件数が増えるということはないと思います。最終目標を第三者認証に置くのではなく、ISO22000を食品安全マネジメントシステム導入のためのマニュアルと考えて組織全体で活用するという考え方もISO22000の有効な使い方でしょう。
ISO22000の認証を特に必要とする場面としては、国内の流通よりもむしろ国境を越えた流通が考えられます。供給業者の顔が見えず、どの程度の管理をしているのかわからない場合に、認証の有無が安全に対する信頼性の判断基準として生きてくるのではないかと思います。
日本は食品や農産物の輸入国というイメージが強いと思いますが、現在ではわが国からの食品、農産物の輸出も増えています。農水省も販売促進の予算を増やしていますので、今後は食品安全の認証制度に対するニーズが高まってくるのではないかと考えています。
わが国では輸出検査法を1997年に廃止していますが、アラブ諸国など政府の保証を重視する国もあります。世界的に食品安全への関心が高まる中で、再び輸出に関連した認証制度が注目を集める可能性もあると思います。
審査側のリスク
本誌:ISO9001やISO14001取得企業の不祥事も起きていますが、食品の場合、人の健康や生命に直結しているため認定機関や審査機関のリスクも高いと思います。
湯川:ISO22000の審査を開始するにあたって認証システム開発の関係者もその点は真剣に考えています。
リスクにゼロはありませんから、ISO22000も100%の食品安全を保証するものではありません。そもそもISO22000は製品認証のための規格ではありません。ISO22000は間違いを最小限にとどめ、万一間違いがあった場合でも、原因を究明して再発防止を行うシステムです。
認証システムのスタートにあたっては、製品認証とシステム認証の違いをよく説明する必要があると考えています。
ISO22000は「回収」をシステムの中に含めていることも特徴的です。ISO22000では製品回収が最後の歯止めとして機能し、被害を食い止めることができればシステムが維持されていると考えます。
その点は審査登録機関も考慮しており、1回でも製品回収があれば認証を取消しするようなことは考えていないようです。 もちろん失敗の内容によることはいうまでもありませんが、重要なことは間違いや失敗を起こしにくい組織を作ることであって、失敗があってもそれを糧として、より安全なシステムの構築を目指すことがISO22000の狙いです。
本誌:本日は貴重なお話をありがとうございました。(取材:アイソムズ編集室)
■国際的な流通こそISO22000認証が必要になる、と語る湯川氏。
■図1 ISO/DTS22003によるフードチェーンの分野
■図2 規格の各項目とHACCPの12手順との対応
<アイソムズ 2006年7月号掲載>

