特集 QMSを超えて「顧客拡大」を成功させる方法

特集 QMSを超えて「顧客拡大」を成功させる方法

ミッション、バリュー、ビジョンを明確にした顧客作り、
「攻め」と「守り」を機能的に連結したシステム構築


小田島品質経営研究所 所長 小田島 弘 氏

顧客の維持、獲得、そして拡大は企業にとっての死活問題といえる。その方法論は千差万別であるが、特にQMSを展開する企業にとって、そのシステムを効果的に使用した考え方はあるのだろうか。ISO9001の範疇を超える課題をいかに克服していくのか。その考え方について本誌2回目の登場となる小田島氏に話を聞いた。


顧客の維持、獲得、拡大


本誌:QMSを実践する企業が、顧客の拡大を行うために必要な考え方についてお教えください。

小田島:企業が新規顧客の拡大を考えることは重要かつタイムリーなテーマだと思います。

平均的な数字ですが、企業が持っている顧客取引は1年間で平均15~20%減少するといわれています。ということは黙っていれば5年で顧客はゼロになります。もちろん顧客が減ることには原因があるわけですから、その原因をとらえ減少を食い止めて増やしていく。なおかつ顧客により多く買ってもらう。つまり、顧客の維持、獲得、拡大という三つのステップを行うことが重要です。

本誌:顧客の維持、獲得、拡大というステップのポイントについてお教えください。

小田島:顧客の維持、獲得、拡大の意味を考えると、維持は「顧客を守ってお見限り客を減らすこと」、獲得は「魅力ある商品・サービスで顧客を増やすこと」、そして拡大は「リピート客を増やすこと」という意味です。

そのために最初に考えるポイントは、既存顧客の層別と研究です。ISO9001は顧客がすでに存在し、維持されていることを前提としたシステムであるためか、「顧客とは誰か」という研究が足りないという印象があります。しかし、顧客を維持、獲得、拡大するためには品質保証だけではなく、例えばスピード、価格など様々な要素が大きく影響します。まずISO9001取得企業には顧客の研究なしで経営できるのかということを反省してもらいたいと思います。

第2に、顧客とは企業に何を与えてくれる存在なのかを考えることです。顧客は「売上げ」はもちろん、「会社発展のための改善点」「苦情、クレームなどから新規事業、新商品のヒント」「人間関係を通じてのコミュニケーション」など、改善のための様々な情報を与えてくれる存在であることを認識していただきたいと思います。

顧客とは誰か


本誌:「顧客とは誰か」という問題はどのように考えればいいのでしょうか。

小田島:顧客といっても千差万別ですが、顧客の維持、獲得、拡大という観点から見ると、表1のように分類することができます。大きくは流通プロセスで存在する顧客、そして直接販売プロセスで存在する顧客になります。また、直接販売する顧客を「購入前」「購入後」に分類しています。

企業にとっては提供する商品・サービスを消費する顧客を層別し、それぞれの消費者行動、購買動機、満足度、消費者動向などの調査・研究が必要になります。消費の対象としての受身の立場から各人の生活に根ざした生活者指向への変化を理解し、知り、喜んでもらえる企業姿勢とは何かを、その調査・研究から把握することです。

本誌:既存顧客の維持はどのように考えるべきでしょうか。

小田島:現在の顧客満足度を維持することは、新規顧客の開拓に費やす労力の6分の1で済むというデータがあります。つまり、新しい顧客一人の開拓に3万円かかるとすれば、既存顧客一人の維持は5,000円で可能ということです。まずは既存顧客を維持してお見限り客を減らすことが重要です。

それをせずに新規顧客の拡大ばかりに注力すると既存顧客に対するフォローがおろそかになります。営業の資源が一定だとすると守りがおろそかになれば、競合先に足元をすくわれる可能性も大きくなります。

また、既存顧客をリピート客として確保することは、新規顧客の獲得にもつながります。顧客のリピート率は、品質、評判、販促、受注活動の良し悪しを測る重要な尺度となりますから、既存顧客の満足度を徹底的に調査・研究して、満足いただいている内容を新しい武器に新規顧客を開拓していくことできるからです。

ミッション、バリュー、ビジョンで顧客作り


本誌:既存顧客を守りつつ、新しい顧客を開拓していくには。

小田島:まず大切な考え方は、人作り、モノ作りの前に「顧客作り」です。

いくら優秀な社員を育てても、良い商品・サービスを作っても、顧客からの注文や顧客にとっての存在価値がなければ経営は存続できません。

そのために必要なことはトップの姿勢です。今、伸びている企業を見ると、どのような顧客を相手にしているのかの事業の目的(ミッション)を明確にしています。そして、わが社はその顧客にどのような価値(バリュー)を提供するか、さらにそのミッション、バリューによって数年後の企業の目指すところ(ビジョン)を顧客はもちろん社員に対しても明確にしていることが特徴です。

このミッション、バリュー、ビジョンを明確にすることが顧客作りの最前線にどうしても必要なものであり、トップのリーダーシップが発揮される点です。

特にISO9001取得企業では、品質方針を重視しがちですが、品質方針の前にミッション、バリュー、ビジョンがあることを理解していただきたい。品質は顧客が決めるものであり、顧客なしでは品質もありえないということです。そして、どんなに「顧客に役立つ商品やサービス」を開発しても、顧客がその価値を知らなければ購入には結びつきません。

“良い製品”では売れない


本誌:良い商品・サービスを開発してもそれだけでは売れないと。

小田島:顧客作りが大切なことの例として、現在、ベンチャービジネスが盛んですが、大体3年で80~90%が姿を消すといわれています。なぜかというと、モノ作り偏重で顧客作りの配慮が不足しているためです。アメリカではベンチャー企業が成功する要因として、トップがマーケティングや営業、販売経験者であることが条件の一つといわれています。トップが技術者出身の場合、投資することがないとさえいわれています。

PC事業から撤退した日本IBMの大歳卓麻社長は、「技術面で良い製品を開発したメーカーは、“良い製品だから売れるはず”と勘違いしがち。自分もその落とし穴にはまった」と語っています。つまり、顧客は製品について何ができるかという機能よりも、どのような効果を得られるか、その価値を知りたがっているということです。簡単にいえば、顧客はその価値・効用でどれくらい儲かるのかということを知りたいのです。

本誌:その顧客の満足度を知るためにはどのようにすべきでしょうか。

小田島:顧客満足を得るためには顧客の満足度を指標化し、改善していくことが有効です。その点、ISO9001にも顧客満足という言葉はありますが、その内容は顧客要求事項や期待を充足すればいいだけで、顧客からは「当たり前」と思われているにすぎません。

顧客の維持、獲得、拡大を実践するためには「驚き」と「興奮」、「喜び」と「感動」という水準にまで到達することに挑戦し、実現することが重要です(表2)。

顧客満足は社員満足から


本誌:ミッション、バリュー、ビジョンは、顧客はもちろん社員に対しても明確にしておく必要があるということですが。

小田島:リーダーシップとはミッションを作り、バリューを提供し、ビジョンを明確にすることだといいましたが、相手は顧客だけではなく、社員に対しても明確にすることが原点です。

例えば、社長は様々なビジョンを持つが、なかなか実現できない。社長のビジョンを実現するだけの理解度、実行力が社員にないという経営者がよくいます。

しかし、社員を「やる気」にするためには旗印を鮮明にし、同時に普段からその思いを社員に徹底的に伝えることが大事ですが、それをしない経営者が非常に多い。

有名チケットサービス会社の社長は、社長の思いを実現するためには、その思いを社員に語りつくし、火をつけることだといいます。そのように経営者と社員とがコミュニケーションをとることで、社内システムの改善点が見えてきます。その改善手法にISO9001やTQMが役立つでしょう。

しかし、その時に重要なことは経営者が「社員は顧客」であるという価値観を持つことです。社員は毎日出社し、決められた業務を行い、業績の向上に大きく貢献しています。その社員満足度向上活動を展開し、社員をどれだけ大切にしているかという思いを伝えることで、社員の能力向上を経て顧客満足を高めていくことが可能になります(図1)。

本誌:その社員の能力はどのように測ればよいでしょうか。

小田島:一人当たりの粗利益額の増加率(原単位)で効率、効果を測定するとわかりやすいと思います。人件費が含まれていますから、社員の年齢・キャリアなどによる差がなく公平に見ることができ、また同業他社との比較も可能です。

そうすれば売上げは顧客がくれるもの、利益は社内の努力で出すもの、という考え方ができることも利点です。

“out side in”と“in side out”


本誌:以上のような考え方を踏まえてどのようなシステムを構築することが有効でしょうか。

小田島:“out side in”と“in side out”を両立させることです。

“out side in”とは、先ほどもいったように顧客の価値観の変化をつかみ顧客の視点で見る、自社の商品・サービスを考えて行動することです。

一方、“in side out”とは、企業が持つ資源である人・金・物という有形の資源、さらに情報、技術、ノウハウという無形の資源など、企業が持つ価値、売り手、作り手の視点で見る、考える、行動することです。

つまり顧客の価値観に対して、いかに企業が持つ価値を対応させ、有機的、効果的に結びつけるかです。

その上で“in side out”と“out side in”を効果的に結びつけるリーダーが必要です。顧客満足と競争力を高めながら業績を伸ばす仕組み、仕掛けを作り推進していく「マーケティングプロデューサー」の存在がこれからの企業には不可欠でしょう。

本誌:具体的には。

小田島:ISO9001は優れた品質マネジメントシステムだと思いますが、やはり「守り」に重点をおいたシステムです。つまり業績を上げるためにはISO9001にはない「攻め(オペレーション)」の機能を強化する必要があります。

そのためには、ここまで説明してきた「攻め」の分野に強いマーケティング手法に「機関車」の機能を持たせ、ISO9001という母体をマーケティングと販売活動で牽引する考え方が有効だと思います(図2)。

基本的な考え方は、(1)顧客を理解する(顧客視点)、(2)ライバルを把握する(競争優位)、(3)“儲けてぃんぐ機関車”を発車させる、ことです。

特徴は従来のISO9001のシステムを解体することなく、開発から営業まで一気通貫で行う仕組みになっていること、また、マーケティング活動を経営者の役割と管理者の役割、それを支援する販売活動に分けている点です。

それを基に買い手、売り手、作り手の三つを結ぶブリッジパーソンであるマーケティングプロデューサーが必要となります。

「攻め」の機能は、営業力と商品力で構成されます。その中で「守り」の機能であるISO9001を生かすには、ISO9001に「攻め」の機能を盛り込むよりも、むしろ「攻め」の機能と切り離し、「攻め」と「守り」の機能を連結させる方がわかりやすく、また効果も上がりやすいと思います。

顧客満足経営度チェック


本誌:最後になりますが、企業が顧客満足経営を推進していくためのまとめをお願いいたします。

小田島:「顧客満足経営」が企業革新のツールとして注目されてから長い時間を経ていますが、果たして本当に実践されているのかどうかは疑問です。

真の顧客満足経営を実践するには、業績向上につながること、トップのリーダーシップ、商品・サービスの改善に結びつくシステム、そして社員満足が基本になると考えます。

表3は、その考え方に基づいた真の顧客満足経営実行度のチェックリストで、かなり厳しい内容ですが、参考にしていただきたいと思います。

本誌:本日は貴重なアドバイスをありがとうございました。(取材:アイソムズ編集室)

顧客が知りたいことは商品・サービスの機能ではなく、その効用・効果、と語る小田島氏。

■顧客が知りたいことは商品・サービスの機能ではなく、その効用・効果、と語る小田島氏。

表1 お客様分類(14分類)

■表1 お客様分類(14分類)

表2 顧客満足のための大満足指標

■表2 顧客満足のための大満足指標

図1 21世紀の良い会社“ベストカンパニー”実現のためのステップ表

■図1 21世紀の良い会社“ベストカンパニー”実現のためのステップ表

図2 「業績向上儲けてぃんぐ」機関車モデル

■図2 「業績向上儲けてぃんぐ」機関車モデル

表3 CS(顧客満足)経営実行度チェックリスト

■表3 CS(顧客満足)経営実行度チェックリスト

<アイソムズ 2006年8月号掲載>

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