特集 QMSを超えて「顧客拡大」を成功させる方法
ISO9001の「顧客の受け止め方」を超えて
顧客満足度向上を図るための4ステップの中身
元コニカ株式会社 品質管理部長・日本品質管理学会監事 山崎 正彦 氏
ISO9001:2000で新たに加わったのが「顧客満足」の要求事項である。しかし企業にとって真の顧客満足を追求するにはこれだけでは不充分なことは明白で、そのためには企業存続をかけた顧客満足の仕組みをどう作ればよいかにかかってくる。そこで「超ISO」シリーズで「顧客満足度を向上させる」を執筆された山崎氏に、企業がステップアップするために必要な事柄を著書をベースに取材した。
ISOを超えて経営に結びつくには
本誌:「超ISO企業 実践シリーズ」で「顧客満足度を向上させたい」を執筆されましたが、その意図は。
山崎:TC176国内対応委員会委員長で東京大学教授の飯塚先生を中心に「超ISO」研究会を設け、ここでISOだけに限定していては自社の強みになるシステムを構築し役立てることは難しく、最終的に経営に結びつくTQM(総合品質管理)にまで発展させるためにはどのように進んだらよいのかを検討しています。ステップを踏みレベルアップするという考え方をしており、その第1弾が「超ISO企業 実践シリーズ」全12冊の発行となりましたが、このにある「超」とはISOを超えるという意味を込めています。
本誌:ISO9001だけでは難しいのでしょうか。
山崎:表1のように、ISO9001で顧客満足に関連して要求されている項目は「5.2顧客重視」~「8.4データの分析 a)顧客満足」までで、その中心となる活動が「7.2.3顧客とのコミュニケーション」になります。そしてその評価も「顧客の受け止め方」であって、レベルも優・良・可で評価したとすると、可でもよいというものです。お客様が満足しているかどうかという大きな視点でとらえれば、本当にベースとなる考え方でしかありません。
結局ISOだけの活動では機能しませんから、お客様を満足させ、喜んでもらえるレベルにまでもっていかなければなりません。そこでどのような段階を踏んで実施していけばよいか、四つのステップをこの本の中で提案しています。
本誌:確認も含め、顧客満足度向上の必要性とは何でしょうか。
山崎:図1にその考え方を記しています。企業が作った商品の判断をするのはあくまでも顧客ですから、顧客が商品の価値を認めてくれなければ取引は成立しません。成立しないと企業の収益は上がらず、新たな投資ができなくなり、継続的な存続は困難になります。
また、従来は企業は売上高、資本金などが大きくなればいいという考え方が大勢を占めていました。しかし現在は必ずしも大きいことが必要充分条件ではなく、大きさよりも存在感があり社会に貢献しているかどうかなど、企業の生き方に対する価値が問われる時代になり、なおさら顧客満足度を上げていかなければならなくなりました。そのような二つの側面が存在していると思います。
取組みの方向性を示す4ステップ
本誌:4ステップの全体像は。
山崎:全体の流れは図2の内容になっていますが、ステップ1「マイナスゼロを目指す」、ステップ2「お客様の声を素直に聞く」までがどちらかというと既存商品などを中心とした顧客に対するステップになります。特定の部門だけではなく、全社で展開を図り、コスト、デリバリー、日程などでもお客様に満足を与えなければいけませんから、いわゆる品質の部分をさらに広げる必要があると考えています。また、顧客満足度を単に確認するだけではなく、お客様の声を聞き、そのニーズを特定していきます。
ステップ3「差別化を目指す」では新商品投入で顧客となるであろう人たちを対象に、どのように商品化、差別化を図り、喜び、感動する商品を提供していくことができるかを、そして最後のステップ4「継続的にCS向上に取り組む」では、ステップ1~3まで行ってきたことをさらに進め、顧客満足度向上に対する全社的な取組みを行い、あわせて従業員満足向上も目指す、そういう方向にもっていこうではないかという構成になっています。
本誌:各ステップの具体的内容をお教えください。
山崎:ステップ1ですが、「マイナスゼロを目指す」、つまりお客様が望むレベルにまで顧客満足が到達していない場合、商品の品質面はキチンとクリアして、マイナスがなくなるようにする段階です。そのためには、まず「お客様が誰であるかを明確にする」必要があります。ただしエンドユーザーに直結していればいいのですが、メーカーなどではお客様が商社や販売会社であったり、販売店や小売店であったりすることが多いのです。したがって、どのお客様を大事にしたらよいのか明確にすることが必要になります。
後は、当たり前ですが「お客様の不平・不満を調べ」て、調べたら商品のマイナス部分がゼロになるよう「不満のない品質の製品を作る」ようにします。最後は「苦情を正確にとらえ、誠実・迅速に対応」してマイナスイメージを払拭することになりますが、苦情の部分は全部をクリアするのが難しいところがあることも事実です。要は、お客様に約束したことはきちんと守ろうということです。
本誌:ステップ2の「お客様の声を素直に聞く」については。
山崎:ここが顧客満足度を上げるのに非常に大事なステップになります。お客様の要望を調査し、その要望を100%満たす商品を提供する段階です。いろいろな方法を採用して要望を確かめ、商品を企画・提供しますが、それには全社員が顧客を意識して、その動向などに注意を払う仕組みが必要となります。一番重要なのは、トップがお客様最優先という姿勢を全社員に浸透させることで、そうでないと全社的展開が図れませんし、データの有効活用をすることもできません。
まず「お客様に接近する」では、その概念を図3に示していますが、要は従来の縦型線接触からお客様を中心に置いた面接触に転換しなければなりません。具体的活動としては(1)社内データの活用、(2)アンケート調査、(3)電子メール、インターネットの活用などがあります。
「お客様のニーズを特定する」では、お客様満足度に対して一律に取り組むのではなく、お客様を特定し、特定した方々の満足度を上げるための取組みを述べています。本の中では顧客を既存顧客、潜在顧客の二つに分類し、既存顧客をさらに上得意顧客と一般顧客に分類しています。
既存顧客に対しては、(1)購入動機の調査、(2)基本情報の収集、(3)離反顧客の追跡、を行います。潜在顧客に対しては、認知してもらうことが大切ですから、広告・宣伝など様々なマーケッティング手法を通じてのアプローチが必要になります。
本誌:「品質目標を定め、商品を開発する」とは。
山崎:お客様に接近し、ニーズを探ってきましたが、商品化の目途が立った段階からは、品質目標を定めて商品化を実施することになります。
ここで重要なのは、品質目標を定める段階でトップがいかにやる気を示すかです。ISO9001でいう「顧客重視」の考え方や顧客満足を高めることがなぜ必要であるかについてコミットメントし、全社に浸透させることがポイントになります。
その後は(1)商品の魅力度、(2)自社の開発力、などの項目を検討しつつ商品の仕様を決定し、商品を開発する段階になります。
本誌:ステップ2まではいわば基本編という構成で、その後のステップ3、ステップ4では対応が高度になるという印象を受けますが。
山崎:ISO9001を取得し、自社でアレンジしつつ順次顧客満足度を上げていくための基本的なステップが1~2の段階です。その後はマーケッティング手法などを取り入れての新商品開発などになりますし、最後はそのレベルを維持しながらさらに顧客満足を向上させるための全社的取組みとなりますから、相当高度なレベルになります。
潜在ニーズを探り商品を企画!
本誌:ステップ3についてお教えください。
山崎:ステップ2よりさらに進んだ魅力的商品をお客様に提供することによって、顧客満足度を向上させるステップです。顧客満足度の向上を図るポイントは「顧客が本当に望んでいるものは何かを探り当て、それを商品化して提供すること」です。望んでいる機能・性能がお客様の期待とぴったり合えば満足度が高くなり、さらに購入前には気づかなかった機能・性能を発見すれば感動させることもできます。
しかし、実際問題として、お客様が本当に望んでいるもの(潜在ニーズ)をつかむのは非常に難しいことです。お客様自身や作る側すら気づかないことがありますし、メーカーの狙いとはまったく異なる使い方をされるケース、顧客満足そのものが時系列で変化してしまうなど、いろいろなケースが存在します。難しいですが潜在ニーズをつかみ、それをもとに差別化商品を作っていきます。
具体的には「潜在ニーズ」では(1)顧客の行動を観察する(購入製品、社会の動向、市場・業界の動向など)、(2)ヒット商品の分析、(3)お客様の質問・要望・苦情などをつかむことですし、「差別化製品を作る」では、(1)競合他社製品の分析、(2)品質表の活用、(3)商品企画七つ道具の活用、(4)シーンアナリシス(場面解析)の活用、などによって差別化し、そこから感動を呼び起こすような商品化をしていきます。
しかし、商品化には自社の技術力のレベルアップも必要で、そのことを「技術力を高める」としています。また、自社の強みは何か、自社の存在意義は何かということに意外に気づいていないケースが多く、自社能力の洗い出し、評価をして技術を高めることも必要になります。
本誌:最後の「継続的にCS向上に取り組む」では、ステップ3まで実施してきた組織が、その活動を継続的かつ定着させるための段階だと思っていいでしょうか。
山崎:そのとおりで、顧客満足の向上のためには、当たり前品質レベルの商品を開発することから始まり、さらに魅力的品質レベルの商品を開発してマーケットに投入することになりますが、仕上げとして、その活動を継続的に行う体制を企業の中に根づかせる必要があります。
「ニーズの変化を見落とさない」ためには(1)お客様の外的要因による変化の把握、(2)お客様自身の変化の把握、(3)従業員の気づき、などが必要になりますし、「お客様の囲い込みを行う」ためには(1)会員制度、(2)ポイントカード、(3)スタンプ・ポイントシステム、(4)マイレージサービスなどにより、お客様との関係を密接に保つ仕組みが必要になります。また、今後の商品開発を含めて「CS調査を行い、その結果を製品に活かす」ことも継続的に行う必要があります。
最終的に従業員満足も目指す取組み
本誌:最後に「従業員満足も目指す」を入れられている理由は。
山崎:まとめのようになりますが、顧客満足度を向上させる活動をなぜやるのか、その解の一つが「顧客、企業、従業員の三者にとって有効な活動である」からと考えています(図4参照)。まず、顧客満足度を向上させる活動で、お客様にはその企業の商品を愛用することにより生活をエンジョイしていただき、その喜びや感動経験を他のお客様にも伝えることなどで、満足していただけます。
企業はそのような商品を提供することにより、多くのお客様を獲得し、売上げ(利益)を確保することが可能となり、新たな魅力的商品の開発のための投資もでき、継続的な存続が図れることになります。同時に従業員に対しても自己実現のための教育や新しい仕事への挑戦なども支援することが可能になります。
従業員は、報酬を得ると同時に自分の仕事に対する思いを実現でき、達成感や満足感を得ることができます。さらに、お客様に接近することで、自分たちの仕事がお客様にどのような影響を及ぼすかが肌で感じられ、仕事にやりがいや責任感も生まれてきます。
このように、顧客満足度向上のための活動を通じて、お客様、企業、従業員にとって多くのメリットが生まれてくると思っています。
本誌:顧客満足度を向上させるための四つのステップをお聞かせいただきありがとうございました。
(取材:アイソムズ編集室)
■「これらの項目の中で一番のポイントはトップマネジメントが顧客最優先という考えを社内に浸透できるかです」と語る
山崎氏。
■表1 ISO9000の「顧客満足度」関連規定
■図1 なぜ、顧客満足度の向上か?
■図2 顧客満足度向上ステップ
■図3 お客様に接近する
■図4 なぜ、CS向上活動か?
<アイソムズ 2006年8月号掲載>

