特集 QMSを超えて「顧客拡大」を成功させる方法
単なる顧客満足調査では不可能!
サイレントマジョリティへ積極的に商品企画手法でアプローチを
成城大学 経済学部経営学科 教授 神田 範明 氏
顧客満足によって顧客の拡大を図る。至極当然の考え方であるが、具体的方法論になると、いろいろな悩みが生ずる。それはISO9001に断片要求はあっても具体的なものがないからでもある。そこで本稿では「商品化」ということに絞って、成城大学教授で、日本品質管理学会理事であり、「商品企画七つ道具」(日科技連出版社)の著者でもある神田氏に、商品企画による顧客拡大方法について取材した。
商品企画の前提条件
本誌:顧客満足データを商品企画に活かす方法ですが、まず前提条件からお教えください。
神田:商品企画の場面ではいろいろありますが、重要なのはお客様(ターゲット)を一体どのような方々を対象と考えているかになります。この前提が間違っていると商品化自体が失敗することになります。ターゲットと全然違う層の方々に満足度の調査をし、データ分析をしても意味がないのは自明の理です。そうならないためにターゲット層、メインとなる顧客層を充分考えておく必要があります。
次に調査対象の範囲ですが、広すぎても、限定しすぎてもいけませんから、通常考えている層よりも少し広めにとらえ、アプローチして反応を見ながらだんだん絞り込むことが必要です。例えば、対象商品の購買層を20代の男女と推定したのであれば、少し広げて20代~30代の男女に広げて調査します。
要は、広すぎると膨大なデータを取ってしまい、処理することが事実上不可能になりますし、限定しすぎてしまうと、思い込みに陥りやすいからです。
本誌:限定してしまう原因はどこにあるのでしょうか。
神田:生産財メーカーなどでよくあるのですが、お客様は納入先ですからそこに満足度調査をお願いし、当社の製品はどうでしょうかと調査します。当然、「満足している」との答えが返ってきますが、そのわりにはそれほど売れず、もっと売れるはずだという疑問が当然出てきます。
原因は、直接の顧客しか考えていないことから生じています。つまり納入先のさらに先に存在する一般ユーザー、エンドユーザーのニーズが全然わかっていないためです。理由は納入先からの注文、こういうスペックで、このようなロットを、いつまでに、いくらで作って欲しいというのをそのまま実施しているだけだからです。
ですから満足度調査を実施しても「よい」「妥当だ」というような回答が直接の顧客から返ってくるだけです。契約上の商品を作っているだけですから、大体満足しているに決まっていますし、不満でしたら発注されなくなりますから、これはもう論外です。
しかもエンドユーザーが何を欲しているのかは、既存商品の満足度調査ではまず出てこないのです。必然的にその先を考えてアプローチする必要があります。そのことを一番訴えたいのです。
調査対象に対する誤謬
本誌:例えば、ISO9001の顧客満足調査などでは出てきませんか。
神田:ISOをやっておられる方々はルールどおりにやればいいと思っていますし、顧客満足度調査をしてもいい成績なので、ISOの要求事項を満たしていると思っています。事実、審査を受ければ不適合の指摘は受けません。だが商品はあまり売れないという話はたくさんあります。
その背景には、ISOの基準を満たせばという考え方が根本にありますし、既存商品と商品化の調査とでは関連性はあるものの、前提が異なることを理解しないためです。要はお客様が喜んで買ってくれ、納入先でも「すごいものを考えてくれた」「もっと納入してほしい」という商品を開発するためには、納入先よりも一歩先を行き、さらにその先にいるユーザーが望んでいるものは何かということを考えられるかどうかにかかってくると思います。
本誌:何が必要でしようか。
神田:一歩先を行くのはアイデアかもしれませんし、単なるヒントかもしれません。それを見つけるシステムを社内に作れるかどうかが大きなポイントになってきます。システム化するには費用も、時間も、人手もいりますから、経営者の判断がないとできません。しかし、それをやらなければ企業が生き残ることは無理だと考えています。
ただし、そのシステムとは担当部署、担当者を置くことに限定する必要はありません。マーケティングで商品化をやっている方々が、そのような意識を持ってシステムを作っていけばできます。ともかく、何を、どのようにしてやるのか、そのやり方の方向一つで決まります。
感動最大かつ顧客満足最大に向けて
本誌:満足度調査をどう利用したらいいのでしょうか。
神田:顧客満足度調査を否定しているのではなく、それは大事なことですし、継続的にきちんと実施することは当然だと思います。しかし、ISOの要求が満たされたからといって、ヒット商品は出ません。皆さんもISOだけではできないと思っておられるのではないでしょうか。
例えば、お客様の満足度や不満度がわかり、それを改善すればいいのであれば、結局は満足レベルに到達して終わりです。別の言い方をすれば、不満を解消してもマイナスが0になっただけで、お客様は大満足ではありません。0ではなく+5や+10になるまでレベルを上げなければなりません。
商品企画と顧客満足との関係でいいますと、「感動最大」かつ「顧客満足(CS)最大」という商品企画が必要で、それを作れるか否かは、お客様の要求品質レベルを着実に把握し、その層に合わせて最適な商品化が行われるか否かで決ります。それには以下の「七つ道具」を使って、きちんと層別し、アイデアを発想し、調査確認し、コンジョイント分析で具体案を絞り込むという方法がよいと思います。
商品企画七つ道具の中身
本誌:商品化の七つ道具を具体的にお教えください。
神田:商品力、中でも感動を呼ぶコンセプトの追求による商品化が真のヒット商品の企画であると考えていますが、それだけでは観念論的な議論になってしまいます。また企業の事例を集めて解説してもヒントにはなりますが、自社のやり方にはなりません。ポイントはそのような商品化を自社で企画し、実施できるかどうかで、その具体的な方法論が「商品企画七つ道具」です。その流れを図1に、そして詳細内容を図2に示しました。
最初に「インタビュー調査」があります。商品化対象層の顧客に集まってもらい、その声をとことん聞きくことですが、大事なことは潜在ニーズ、つまり見えていない、読みにくいニーズをここで吸収することです。同時に仮説も出てきますから、「ネタ、ヒント」がわかり、それらを統合した仮説をここで立てます。
二番目に、仮説を立てたらもう少し具体的な商品化対象の「モノ」に近づいた「アンケート調査」を行い、その評価データを収集します。ここでは仮説に基づいた、不満や要望などを意図的に評価項目に入れ、他社商品、競合品を含め、評価してもらいます。
三番目が「ポジショニング分析」です。アンケート調査で商品評価をした結果を分析し、ポジションを示したマップ作りをしますが、その中で(1)商品のポジションの分布、特に既成商品や仮想商品の位置の検討、(2)顧客の意識の「すきま」を発見する、(3)顧客が購買意欲を高めるような方向性、などを分析します。商品の何の要素が、どの程度外れているかがわかると同時に、お客様の求める方向も見えてきます。
ここまででお客様が求めているものは何かが大体見当がつきます。それとは逆に、例えばトップがこういったからその方向に進む、納入先から指示された方向でやる、あるいは社内で議論しその方向で実施するというのでは、間違ってしまいます。この段階までの方向決めに時間と手間をかけましょうというのが私の考え方です。
本誌:次がコンセプトを開発する「アイデア発想法」とアイデアを取捨選択する「アイデア選択法」ですね。
神田:「アイデア発想法」ですが、これは仮説で立てた商品の足りない部分を補うために、売れるための面白さやユニークさのアイデアを出していく段階です。よく「アイデア会議」と称し、いきなりアイデア出しの会議を招集したりしますが、それでは方向性や先行き、お客様の考えが見えませんから、これほど無意味な会議はないと思っています。
ここでたくさんのアイデアが出ますから、次にそのアイデアを取捨選択します。三番目の分析結果で出てきた、例えば、面白さ感、機能・性能などを評価項目にして選択していきますが、ポジショニング分析で得られたウエイトが2対1であればそれに準じたウエイトでアイデアを選びます。お客様にとって理想のアイデアは必ず上位にきますから、割合客観的に選択できます。
本誌:いよいよ「発想」段階から、次の「最適化」に移りますね。
神田:お客様の望む方向、それに対するアイデアまで出ましたから、六番目に最適化のための「コンジョイント分析」を行います。各アイデアの重要な要素(価格、材質、色、デザイン、機能・性能など)を取り上げ、これらを組み合わせたパターンを作り、お客様に提示して点数づけしてもらいます。
例えば、お客様の買いたい程度とう要素であれば、5点評価で何点かが明確に出てきます。大体3.5点で失敗はありませんし、4点でしたら大体ヒット商品になります。そして、そのデータを解析し最適な組合せを求めれば、自動的に新商品の最適コンセプトになります。
本誌:最終段階での「品質表」とは何でしょうか。
神田:今までの段階で最適なコンセプトを作りましたが、「モノ」として作り出せるかどうかは充分検討してはいませんから、この段階で対応します。例えば、耐久性についてお客様は何も意見をいわなかった、デザインの細かいことは全然わかっていない、機能・性能は大雑把にはわかっているが果たして技術的にどうだろうか、というような問題です。
そこでいわゆる品質機能展開の最初のステップである「品質表」に持ち込みます。品質表は実現すべきお客様からの要求を系統的にまず整理し、それらと関連する技術特性を列挙して、マトリック状に関連づけを行い、コンセプトを的確に技術の言葉に変換します。そのことで、重要特性や開発のネックなども明らかになってきます。
サイレントマジョリティに向けての商品企画
本誌:結局、お客様の嗜好性をいかに見つけ出すかにつきますか。
神田:商品をたくさん売るにはと考えた場合、大事なのは物言わない大多数の人々、サイレントマジョリティをどうとらえることができるかにつきます。この人たちは5段階の満足度調査で大体3前後の位置にいますが、アンケートを書くのも面倒臭い、大体こんなものでいい、という人たちです。
それに対して、5段階の2以下や4以上の人々は結構意見をいいます。文句をいったり、感動してくれたりします。しかし大多数ではありません。サイレントマジョリティの人たちを動かさない限りヒット商品は生まれません。したがって、それらに対して調査、例えばグループインタビューやアンケート調査をして、意見を聞かない限り、本当に売れるものはわかりません。先にいいましたシステムを社内標準化できたのなら、その会社は多分次々とヒット商品を生み出せると確信しています。
本誌:現在は「顧客」から「個客」の時代といわれていますが、そこでの商品企画についてお教えください。
神田:そういう言葉にあまり惑わされない方がいいと思います。サイレントマジョリティが本当に個別の全然違うものを求めているかというと、そうではありません。確かに正規分布の端にいる一部の人たち、先端的な人たちは、個性を主張していますが、全員がそうではありません。
また細かな商品、安い商品でしたら個別化で種類を増やしバラエティ化も考えられます。しかし、それとても増やせば増やすほどコストもかかり、製造も大変で、結局単価が高くなって売れなくなります。売る側にとっては非常にややこしい問題を抱えることになります。
それでしたら、単一商品ですごい物を作り、売れてからバラエティを増やす方が自然です。したがって、皆が共通して欲しいもの、しかも隠れているものは何か、その大きな塊に向かって商品企画をしていく、それが一番いいやり方だと思います。
本誌:商品企画についての貴重なお話をありがとうございました。(取材:アイソムズ編集室)
■サイレントマジョリティの人たちを感動させ動かさない限りヒット商品は生まれない、と語る神田氏。
■図1 商品企画七つ道具手法の流れ
■図2 商品企画七つ道具手法の流れ(周辺も含めた詳細)
<アイソムズ 2006年8月号掲載>

