特集 QMSを超えて「顧客拡大」を成功させる方法

特集 QMSを超えて「顧客拡大」を成功させる方法

どの業種でも顧客満足向上には顧客に接する要員の教育がカギ

編集室

見込客が顧客となり、さらに満足してリピータに育つと、企業のメリットは大きい。既存顧客の維持コストは新規顧客獲得コストの1~2割ですみ、また苦情解決により満足した顧客の再購入決定率は不満をいわない顧客の9倍ともいわれるからだ。顧客の視点に立ち、製品品質・サービスを向上させて顧客に「満足感」「信頼感」「安心感」を提供するには、単にアンケートや挨拶運動をするだけではなく、顧客に接する要員の教育が不可欠だ。ここでは主な業種の顧客満足活動の一端を紹介する。


顧客満足活動の基本的な考え方


顧客満足は「顧客を満足させる」のではなく、「顧客が満足する」ことである。つまり、選択・購入し、利用した商品・サービスが「事前の期待以上」で「価格以上の価値」が得られたかどうかを顧客自身が評価する。そこで企業は、「顧客がどのような期待を抱いているか」を事前に察知し、期待に応える商品・サービスを提供するように努める。すなわち、顧客に指摘された問題点を「個別」に「事後的に」対応するだけではなく、過去の取引実績や経験を生かし、ターゲット顧客層「全体」が求めていることを「先取り」し、新しい製品やサービスを創り出していくのである。

この期待は、商品・サービスの質、内容、提供者、提供する場の雰囲気や仕組みにも左右され、さらに時間の経過によっても変化するのでとらえにくいが、各企業が収集しようとする情報は、大きく分けて二つある(図1)。

一つは新製品・新サービスの開発や既存製品の改良といった商品企画・技術改良の “顧客ニーズ”に関する情報であり、もう一つは“CS活動”の評価に関する情報である。これらの情報は、アンケートや営業担当者が直接聴くだけでなく、人を変えたり、調査会社など第三者を介して聴くことも必要である。また、目標となるベストプラクティスを知るため、競合他社の動きや顧客の評価情報も重要である。

顧客満足獲得の第一歩は、全社員が顧客の視点に立つことである。ソニーはその視点で、より質の高い顧客満足を実現すること、顧客にとってもっとも信頼されるパートナーであり続けることを最大の目標、使命と考え、2001年度に「CS憲章」を制定し、全社員の意識改革・CSマインドの定着を図っている(図2)。

なお、同社では日本・米国・欧州の各地域の業界団体(CERO/ESRB/PEGI)のレーティング制度を導入し、ゲームソフトがどのような年齢を対象としているかの情報を提供するなど、顧客満足の分野でも先進的な取組みが多い。

建設・住宅業の顧客満足活動


構造計算偽装やアスベスト、昇降機問題などで揺れる建設・住宅業界においても顧客満足の重要度は高い。住宅は量から質へ、また質も多様化かつ高度化(省エネ、健康、環境、高齢化)している中で、プレハブ住宅メーカー、設備メーカー、建材メーカーなどが住宅産業協議会を設立し、顧客満足アンケートの研究や解析手法の研究などを行っている。

2005年度のアンケート結果から住宅の重視度と満足度を見ると、「室内の明るさ、日当たり」「間取り」「通風や換気」「建物の配置」などの住まい心地や、「外観の見栄え」「キッチン、トイレ、浴室の使いやすさ」など水回り設備について重視した人が多く、評価も高くなっている。一方、「収納スペースの広さ、使いやすさ」「冬の快適さ」「夏の快適さ」「コンセント、スイッチの数や高さ、位置」は、重視度が高いにもかかわらず評価が低くなっている。重視度と評価がともに低くなっている項目としては「隣室間の遮音性」「上下階との遮音性」など屋内での遮音性があげられる。

なお、満足意見のカテゴリー件数が多いベスト5は、「担当者」がトップで、「アフターサービス内容」「総合評価」「建物」「提案設計内容」の順、不満意見のワースト5は「アフターサービス」「担当者」「提案設計内容」「施工」「部材品質」の順である。比較的不満比率の高いカテゴリーは、「設備」「部品材質」「価格」及び「施工」である。このように満足・不満意見ともに「担当者」と「アフターサービス」に関する意見が多くなっており、これらが総合満足度に及ぼす影響度が非常に高い。すなわち消費者が住宅メーカーに求めるものは、住宅という「ハード」面はもとより、プランニングの際の提案やアドバイスから設計、施工、アフターサービスまでの総合力と安定した企業体への安心感という「ソフト」面のウエイトが大きいことがわかる。やはり、顧客満足獲得には人作りが不可欠なのである。

メーカーの顧客満足活動


メーカーの場合、製品そのものの機能や価格が顧客満足にとっては何よりも重要である。

しかし、機械では安全性が求められ、また購入してからの使用期間が長期にわたるものも多く、販売したら終わりではない。高額なものでは、例えば新技術によっていつごろ陳腐化する見込みなのか、といった事前の情報提供も重要になる。

このため家電メーカーでは、顧客満足活動の一環として日々の顧客とのコミュニケーション、顧客相談対応、保守・修理サービスを行うのが一般的である。

顧客とのコミュニケーションは、セミナーなどを通じて行う。 顧客相談は、電話サポートの他、ホームページ上のインターネット相談窓口で声を集め、本社データベースに集積し、各セクションで検討し、商品・サービスの向上や新たな満足を得るためにフィードバックする。ここで、顧客情報の活用ツールとしてコールセンターがある。これはCTI(Computer Telephony Integration)という技術で電話やFAXをコンピュータシステムに統合し、さらに顧客データベースと連携して個別のプロフィールや過去の応対履歴、購入履歴などを参照しながらテレコミュニケーターといわれる高度な訓練を受けた専門スタッフが的確なサポートを提供する。このコールセンターと、営業部門効率化のためのSFA(Sales Force Automation)といった最先端の情報システムを活用し、商品売買から保守サービス、問合せ・クレーム対応など、個々の顧客とのやり取りすべてを一貫して管理することで顧客満足を高め、顧客と長期的に良好な関係を築く手法をCRM(Customer Relationship Management)という。

保守・修理サービスは、高度かつ均質であることが必要である。人によって、地域によってバラツキがあるのでは信頼を失う。したがって基準を定めてマニュアル化し、サービス提供者には充分な教育訓練を行わなくてはならない。家電やオフィス機器などでは即日修理などの修理サポート体制が必要になる。

自動車業の顧客満足活動


自動車メーカーでは、トヨタがドイツ自動車顧客満足度(CSI)調査で現在4連覇中(2002年~)だが、この調査では「品質と信頼性」「車の魅力」「アフターサービス」「維持費」の4ファクターに関する77 項目を評価している。ちなみにイギリスの自動車顧客満足度調査でも、トヨタの海外高級車ブランドであるレクサスが6年連続でトップ(トヨタ本体も4位)である(2001年~)。

また、ガリバー自動車流通研究所のマンスリーレポート2005年10月号によると、消費者が自動車販売店に満足と感じるもっとも重要な要素は「価格」「アフターサービス」「接客姿勢」「車の品質」が20%台でほぼ横並びで、続く「ロケーション」「整備施設の充実」「店舗のきれいさ」は1~3%にすぎない。ここでも営業担当の役割が大きいが、「購入後の営業マンに望む対応」では、半数が「必要な情報を郵送してくれる」、つまりDMだけで充分だという結果である(図3)。つまり、電話やもちろん、メールさえも必要とはされていないのである。招かれざる客では逆効果である。顧客にうっとうしいと思われないように対応したい。

なお、同レポートの価格重視、それ以外重視の整理によると、新車はサービス重視、中古車は価格重視であることがわかる(図4)。

2004年度の日本経営品質賞を受賞するなど、顧客満足の世界で手本とされるホンダクリオ新神奈川は、「感動を売る」「信頼を売る」「社員を売る」をスローガンに、訪問販売を行わずショールームを「お客様のリビングルーム」としてアットホームでフレンドリーなもてなしを行っているという。同社では社員教育が最重要と考え、OJTで「30S」を徹底している。30Sとは(1)整理、(2)整頓、(3)清掃、(4)清潔、(5)躾の5Sに、(6)作法、(7)清楚、(8)素直、(9)親切、(10)誠実、(11)信用、(12)真剣、(13)正義、(14)辛抱、(15)債権ゼロ、(16)スピード、(17)スマイル、(18)サンクス、(19)サービス精神、(20)センス、ショールームはリビング、節約、率先垂範、切磋琢磨、趣味の推薦、心配が仕事、先輩がマニュアル、失敗は会社の財産、創意工夫、先生はお客様、を付け加えたものである。

IT業の顧客満足活動


デルコンピュータは、ユーザーがホームページ上で必要な機能や機器を組合せてパソコンを購入するサービスの先駆けであり、徹底した合理化で価格面で優位に立ったが、それだけでなくトラブル解決、問合せへの対応の良さといった人的側面や、拡張性など性能の面でも当時から高い評価を得ていた。

パソコンメーカーでは、「買ったその日に使える」よう、OSやアプリケーションソフト、ゲームなどがバンドルしてあるのはもはや当たり前であるが、オプション機器まで組み込んでユーザーの手間を削減する他、価格の引き下げや保証期間の延長などに注力しているメーカーもある。大型機ではパソコンに比べてコストや難易度が高くなるため、信頼性、運用管理の容易さも顧客満足の重要な要素になる。

また、別のパソコンメーカーでは、「クオリティ・プロモータ」という約1,000人の社員を顧客満足向上の推進役としている。顧客の声や、顧客に接する社員の声を聞き、顧客満足や品質に関する考え方や知識を部門内に広く伝え、全社で取り組むべき課題や他部門との連携が必要な課題について提言する。実際に大組織で顧客満足を高めようとするならば、こういった専門スタッフが必要になるであろう。

最近はマニュアルが電子化され、邪魔にならない反面、まったくマニュアルを見ていないという顧客も少なくない。したがって、WebページでのFAQなど、わかりやすい情報提供も必要である。また、リモート保守はもちろん、ネットワーク環境の発展や複合機の登場で、自社製品以外の部分でのサポートも必要となる(接続が想定されるハードウェアや、利用されるであろうソフトウェア)。つまり、顧客満足向上のためには要員に対する充分な知識・技術の教育が不可欠なのである。

サービス業の顧客満足活動


小売業など、いわゆる「店舗」では商品そのものの良さや価格のほか、「ワンストップショッピング」できる品揃え、低価格、クリンリネス(清潔さ)、雰囲気、担当者の対応、ポイントカード・ノベルティなどが顧客満足の要素としてある。

価格競争に巻き込まれず、付加価値で勝負することで知られるリッツ・カールトンホテルはクレームに備えて最高2000ドルの決裁権を全スタッフに認め、顧客を名前で呼び、顧客の細かい好みに耳を傾けてデータ化することで、低い枕を依頼した客が次に別のリッツ・カールトンに泊まるときには低い枕が用意されているなど、「感動サービス」といわれるハイクオリティなサービスを徹底した社員教育で実現している。

航空業界の顧客満足では、「真実の瞬間」(最前線の従業員が顧客に接する最初の15秒)に顧客に最大の満足を与えるため、大幅な権限移譲と組織のフラット化を行い、破綻寸前だった経営を再建したスカンジナビア航空が有名であるが、日本航空グループもサービスアンケートで寄せられた顧客の声をもとにサービス向上に取り組み、「サービス宣言」としてまとめた(以下抜粋)。

【空港におけるサービス】
・遅延、欠航など不測の事態には、できるだけの便宜を図ります。
・手荷物の遅れや破損には、最善の対応をします。
・お年寄りや体の不自由な方などの旅を、徹底的にサポートします。
・オーバーブッキング(超過予約)にも適切に対応します。

【お客様のご意見・ご要望に関するサービス】
・お客様からのご意見には、迅速にお応えします。
・わかりやすく入手しやすい情報提供を実現します。

金融機関の顧客満足活動


金融機関では駅・コンビニATMやネット対応、24時間対応など立地・営業上の便利さの他、特徴のある金融商品の品揃えと情報提供、事前の充分なリスク説明、担当者の対応、セキュリティ面の安心感、手数料の安さなどが求められる。

三菱総合研究所産業・市場戦略研究本部が2005年12月に発表した金融機関の利用者満足度調査によると、金融機関タイプ別の満足度は郵便局、信用金庫、JA、都市銀行、地方銀行の順であった(図5)。

店舗サービス満足度、自行ATM満足度、インターネットバンキング満足度、預金・運用商品・サービス満足度、情報提供満足度、手数料満足度の6テーマで郵便局がトップ(外務員サービス満足度は信用金庫、ローンサービス満足度はJA)であり、個別銀行の満足度トップは新生銀行であった。金融機関では特に知識・情報面で担当者の教育研修は重要である。

自治体の顧客満足活動


最近は住民を顧客とみなし、「市民満足」の視点で行政活動を見直すため、顧客満足研修を実施している自治体も多い。

利益を追求しない一方、限りのある予算の中で、たとえ不採算でも住民のニーズがあれば対応せざるを得ないこともある。この点は、活動範囲を自由に限定でき、顧客の要求を断ることができる企業とは異なる。また、住民の負担増の問題、優先順位づけ、市民満足の基準と評価方法など、難しい点も多い。

図1 顧客満足活動と情報

■図1 顧客満足活動と情報

図2 CS憲章の例

■図2 CS憲章の例

図3 購入後に望むこと

■図3 購入後に望むこと

図4 価格重視と価格以外重視

■図4 価格重視と価格以外重視

図5 金融機関のテーマ別満足度

■図5 金融機関のテーマ別満足度

<アイソムズ 2006年8月号掲載>

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