特集 続々登場! 地球温暖化防止に挑む、新環境マネジメント規格
規格作成作業が進むISO14005、五つのモジュールによる段階的実施でISO14001をベースとするEMS構築を実現する
IMSコンサルティング株式会社 取締役顧問 ISO/TC207/SC1エキスパート 寺田 博 氏
ISO14005(EMS段階的実施のガイドライン)の作成作業が本格的に動きだした。EMSの構築、運用を段階的に実施し、最終段階ではISO14001の要求事項のすべてを満たすことを目指すこの規格は、考え方を繰り返し整理しながら慎重に作業を進めているが、ISO14001の文章をそのまま引用することなしにEMSを容易に構築可能とするためにはまだまだ課題が多い。そこで同規格執筆のタスクグループに参加している寺田博氏に現状と今後の見通しについて話を聞いた。
EU主導を阻止!
本誌:最初に、ISO14005作成の経緯についてお教えください。
寺田:ISO14005は、2005年のISO/TC207マドリード総会後にNWIP(新規作業項目)として可決され、TC207/SC1の中にWG3が設置されていますが、具体的な活動が始まったのは2006年3月のトリニダード・トバゴ会議からです。
そもそもTC207/SC1では、「戦略的SME(中小企業)グループ」が2004年のブエノスアイレス総会で結成されています。2005年のマドリード総会で終了する予定でしたが、SC1への提案を明確にできなかったため期間を延長して作業を続けています。
新しいタスクレポートには中小企業向けのハンドブックの開発や、段階的実施のためのガイドラインの検討などの項目が含まれています。しかし、ISO14005はそのSMEタスクグループとはまったく別個にEUから提案されてきたものです。
本誌:NWIPに対する日本の意見は。
寺田:日本はISO14005のNWIPに賛成はしましたが、国内委員会では会議に参加するエキスパートがなかなか決まらず、トリニダード・トバゴ会議には誰も出ることができないという状態でした。
しかし、たまたまSMEタスクグループの会議が同時期にトリニダード・トバゴで開催されたため、SMEタスクグループの委員である私が臨時にWG3にも出席することになりました。
CENから提案されたISO14005のNWIPには参考規格としてBS8555(EMS段階的実施ガイド:英国規格)が添付されていました。しかし、BS8555の内容はISO14001だけでなくEMASの構築も目的としており、EMASを志向した部分があります。ところがEMASはあくまでEU規則ですから、EU以外の地域にとっては無関係です。
第1回WG3会合のメンバーを見ると、イギリスからは5名も入っており、アジアからはゼロです。放っておけば間違いなくEU主導となり、BS8555がそのままISO14005として国際規格化されることになりかねません。これは何としても阻止しなければいけないと考えました。
段階的実施に二つの考え方
本誌:「段階的実施」の考え方にについてお教えください。
寺田:段階的実施というと、二つのイメージがあると思います。
一つは、BS8555のように構築のプロセスを段階的に積み上げていく方法です。
もう一つは、最初に簡易なPDCAサイクルのシステムを構築し、それを段階的にレベルアップしていく方法です。
個人的には、国際規格としては前者の方法が望ましいと思っています。なぜかといえば、後者は各段階で認証を与えることを容易にし、市場に無用の混乱を招きかねませんのでこの考え方には賛成できません。
ISO14001はEMS要求事項としてのミニマムの基準です。それをさらに簡略化して認証を与えても一般社会からはその違いがまったくわかりませんし、このような考え方がいくつも出てくると認証の意味は薄れます。
そこで私の考え方は、情報も人材も少ない中小企業が取組みやすい形でEMSを実施でき、最後の段階をクリアすればISO14001への適合が完成しているという形にISO14005をもっていきたいと考えています。
規格作成の留意点
本誌:規格作成にあたってはどのようなことが留意されていますか。
寺田:ISO14001の要求事項を満たすEMSの段階的なアプローチとして、合意している原則は大きく分けて6項目あります。
一つ目は、ビジネスフォーカスであること。つまり、紙・ごみ・電気ではなく製品・サービスに及ぶEMS活動であることが必要です。
二つ目に、初心者に取り組みやすいこと。そのためには例示を示すとともに、明瞭で論理的なガイドラインにすることが必要です。
三つ目に、各段階をPDCAサイクルで考えるが、PDCAという言葉は使わないこと。文章の中にPDCAという言葉を入れないことになっていますが、この意味については私自身もよく理解できていません。
四つ目に、各段階ともドライバーを明らかにすること。つまり動機を明らかにすることです。
五つ目に、各段階とも明確なゴールを設定し、成果を明確にすること。
最後に六つ目として、各企業にベネフィット(利益)が出るようにすることです。
もう一つ重要なことですが、ISO14005のNWIPとして、環境パフォーマンス評価のテクニックをガイドラインに含むという前提があります。つまり各段階での達成成果を自己評価できるようにしたいという点です。
環境パフォーマンス評価はISO14001では触れていませんので慎重な議論が必要ですが、一方ではこの評価のために有効な方法が示されてこそISO14005の価値が初めて出てくると思っています。その反面、悪くすると認証に使われかねないという危惧もあります。
五つのモジュールによる段階的実施
本誌:それでは、現在のISO14005案について概要をお教えください。
寺田:段階的なアプローチとして、A~Eの5段階を設定しています。各段階については、第1回会議の時点では「チャンク」と呼んでいましたが、第2回会議からは「モジュール」と変更されています。つまり、段階的にモジュールA~Eのプロセスで進むという仕組みです。
モジュールAは、マネジメントシステムの一つのトライアルという位置づけになり、ISO14005の特徴的なモジュールです。ここではEMSを実施することのメリットを理解してもらうためのトライアルとして、廃棄物、省エネルギーなど解決したい弱点や問題に焦点を合わせて、モジュールAに書かれている方法で小さなマネジメントシステムを体験してもらうものです。
これによりシステマチックなアプローチのメリットを実感してもらえればモジュールBに進み、実際のEMS構築に入っていくという流れです。
モジュールB~EはPDCAで分けると表1のようになります。
モジュールCのサポーティングテクニックとは、体制、教育、文書管理など、マネジメントシステムを動かすためのツールという考え方です。ISO14001でいえば、Doに相当する部分ですが、実際の構築ではPDCAの各段階で必要となる要素であるため、あえてPDCAサイクルに組み込まず、各段階をサポートする役割という位置づけにしています。
この形は今後も変わる可能性はありますが、モジュールAの位置づけは変わらないでしょう。つまり、ISO14005に取り組む場合、その入り口は二つあるということです。
マネジメントシステムのメリットを体験してみたい場合はモジュールAから始め、その必要がなく、すぐにEMS構築に取り組みたい場合はモジュールBから始めればいいということです。
規格執筆作業を本格的に開始
本誌:規格作成の方法は。
寺田:第1回トリニダード・トバゴ会議でモジュールごとにタスクグループを設置し、共通のフォーマットでドラフトを執筆することになっています。各担当は、
モジュールA:イギリス
モジュールB:ドイツ
モジュールC:アメリカ
モジュールD:フランス
モジュールE:日本
となっており、日本はモジュールEを担当しています。
本誌:現在の作成状況についてお教えください。
寺田:第1回会議終了後にタスクの作成したWD1が配布されましたが、これに対しては約300件のコメントが集まりました。その段階で2006年7月にパリで第2回会議が開催されています。
パリ会議では、考え方を整理することとWD1へのコメントの処理が目的だったのですが、時間切れでコメントは3分の1程度しか処理できていません。
結局コメント処理は新しいタスクグループに任せるということになりました。新しいタスクグループはドラフト作成タスクのリーダー5人と、今回の会議で中小企業の立場を強く主張したアルゼンチン、この規格を提案したNORMAPME、EU代表としてECOSというNGO及び議長の9人で構成されました。
この新しいタスクグループがパリ会議の決議に従って、コメントを反映した第二次ドラフトを仕上げることになっています。
本誌:第2回会議では、あらためて考え方を整理されたということですが。
寺田:WD1は、モジュールごとの執筆作業となったためか、あるところではISO14001要求事項が引用されたり、またあるところではチェックリストが入っていたりと書き方が統一されていませんでした。
パリ会議では各モジュールに含まれる要素の内容としては五つの項目で書くことで合意しています。
五つの項目は、Why、Who、Input、How、Output、つまり、なぜ行うのか、誰が中心になるのか、そのためのInputは何か、どのように行うのか、その結果としてのOutputは何か、という内容です。
さらに最初にもいいましたが、ISO14005は環境パフォーマンス評価のテクニックをガイドラインに含むという前提があります。つまり、各モジュールの達成成果を自己評価するものですが、この具体的な方法としてアセスメントマトリックス表を作ることになっています。
中小企業に特化したガイドではない
本誌:他に問題となっている点はありますか。
寺田:書き方のスタンスとして問題になっていることは、中小企業向けにどう書くのかという問題です。
ISO14005は、もともとすべての組織に適用できる段階的実施のガイドラインとして提案され、作成時には中小企業が実施する際のガイドとして特に配慮するということで始まっていますが、WD1に対して中小企業のための記述になっていないという指摘がありました。
しかし、ISO14005は中小企業のためだけのガイドラインではありません。中小企業でも理解できる書き方で、どのような組織でも実施できる内容にすることが本来の主旨です。中小企業に特化したガイドラインということになると、ISO14001は大規模組織向け、ISO14005は中小企業向けという図式ができてしまいます。
そこで考えなければいけないことは、中小企業でも理解しやすいように配慮した書き方は何かという問題です。その答えは中小企業の条件に合致した事例をより多く示すことだと思います。中小企業が無理なく実施する上で、様々に工夫できることを具体例で示してあげることが有効な書き方ではないかと思っています。
“What”か、“How”か
本誌:ISO14005は、ISO14001の要求事項をわかりやすく解釈するものではないのですね。
寺田:ISO14005は、ISO14001の解釈を与える規格ではありません。第2回会議でも、ISO14005はEMSに関して“How”を書くのか、それとも“What”を書くのかという議論がありましたが、もちろんISO14005は“How”を記述する規格です。ISO14001自体が“What”、つまりEMSとして“何を”行うのかを規定した規格ですから、ISO14005はISO14001の要求事項を段階的に構築、実施、改善していくための“How”、つまり“どのように”行うのかを記述する規格という位置づけになります。そのためにはISO14001の要求事項を参照しなくても、最終的にISO14001をクリアできるガイドラインにしなければいけませんし、またそれがWG3の使命であると思います。
ただ、その作業は間違いなく大変に困難な作業になります。言い換えれば、ISO14001の要求事項を別の言葉で書くということにも等しいからです。
今年秋にはCD1配布か
本誌:最後に、今後のスケジュールについてお教えください。
寺田:7月のSC1会議で決定した原則に基づいてWD1原案を書き直し、それをベースに8月28日までにWD1の最終版を完成します。WD1は9月1日に各国に配布して、9月20日までコメントを募集、そのコメントを各国にフィードバックした状態で10月8日~12日、インド・ニューデリーで第3回会議に入ることになっています。
じつをいうと、今年は開催国が決まらずTC207総会が中止になってしまいまして、代ってSCごとに会議が開催されるのですが、このSC1に合わせて開催される第3回のWG会合でWD2を固めることが予定されています。うまく行けば、WG3会議の翌日がSC1の全体会議ですから、そこでCD1として承認を得ることも可能ですが、その点は今後の作業いかんにかかってくると思います。
本誌:本日は貴重なお話をありがとうございました。(取材:アイソムズ編集室)
■中小企業でも理解しやすい規格とするには、より良い事例を多くあげることと語る寺田氏。
■表1 ISO14005 モジュールB~Eの概要
■図 ISO14005の構成イメージ(WD1段階)
<アイソムズ 2006年9月号掲載>

