特集 続々登場! 地球温暖化防止に挑む、新環境マネジメント規格

特集 続々登場! 地球温暖化防止に挑む、新環境マネジメント規格

ガイドと要求事項(shall)の2規格に再編集。使いやすくなった新規格でLCAは広がる
独立行政法人 産業技術総合研究所 ライフサイクルアセスメント研究センター センター長
東京大学人工物工学研究センター 工学博士・教授 稲葉 敦 氏

LCAに関する規格ISO14040とISO14044が6月30日に発行された。規格の内容は旧ISO14040~14043を整理統合したものだが、“工業製品を環境に良いものに改善する方法”であるLCAは今後いっそう広がっていきそうだ。そこでTC207/SC5の稲葉教授に今回発行された規格と、定着しつつあるLCAについて聞いた。

四つの規格を二つに再編集


本誌:まずLCAについてはISOの専門委員会TC207の分科委員会SC5が担当していますが、ISO14000ファミリーにおける、ISO14040番台のLCA規格の位置づけは。

稲葉:ISO14000ファミリーは大まかにいうと、事業主体が環境に配慮するためのマネジメントシステムと、事業主体から出ていく製品対応の支援ツールがあり、前者にはISO14001やISO14004があります。ISO14040番台のLCAやISO14020番台の環境ラベル(EL)は後者になります。

本誌:今回ISO14040(原則及び枠組み)とISO14044(要求事項及び指針)が発行されましたが、これは旧規格のISO14041(目的及び調査範囲の設定並びにインベントリ分析)、ISO14042(影響評価)、ISO14043(解釈)の三つがISO14044に一本化され、ISO14040も別途改訂されたということでしょうか。

稲葉:いえ、三つが一つではなく、ISO14040~ISO14043の四つをISO14040とISO14044の二つに整理したのです(図1)。このISO14040にはshall(要求事項)が一つしかありません。「ISO14044に従うこと」です。ISO14040は、LCAとはこういうものだという教科書的な説明文書であり、ISO14044には、具体的にこうしなければならないということが細かく記述されています。

本誌:そうすると、まったく知識がない人の場合には、ISO14040のほうでLCAについての知識を勉強して、実際に仕事の現場ではISO14044をガイド的に参照しながらLCAを行うと。

稲葉:そういうイメージです。

本誌:今回、四つの規格を二つに再編したのは、旧規格ではわかりにくい部分があったからでしょうか。

稲葉:旧ISO14040は1997年、14041は1998年、14042と14043は2000年に発行されましたから、規格間の時間的なズレによる不整合もありましたが、最も大きいのは、これまでごちゃごちゃになっていたshallとshouldの整理です。まずISO14041~ISO14043を全部見て、shallに当たるものはISO14044に、そうでないものはISO14040に移しました。そしてshallの中身も加除訂正し、誰が読んでもわかるISO14040と、LCA担当者が守らないといけない事項をまとめたISO14044ができ上がったのです。

本誌:学問的でなく実務的で、使いやすくなったのですね。

稲葉:よく整理できたと思います。

本誌:旧規格は1997年~2000年の発行でしたから、すでに6~9年経ち、その間にLCAという用語は普及していますが、企業の取組みとしては定着しているのでしょうか。

稲葉:資源から製品廃棄まで一貫して考えよう、というLCAのライフサイクル思考、考え方というものは確かに定着したと思います。例えば環境報告書などを見ますと、ある企業では一昨年度に使っていたLCAという言葉を、昨年度はもう入れていません。それは、すでにLCAは当たり前になり、仕組みの中に取り入れられているからです。

本誌:企業ではどこまで取り入れられていますか。

稲葉:LCAにはインベントリ分析とインパクト評価という二つの作業があります。インベントリ分析とは、製品のライフサイクルそれぞれの側面において、使用するエネルギーと原材料(インプット)、環境へ排出される物質(アウトプット)を一つひとつ計量していく作業であり、インパクト評価は、インベントリ分析のデータから、どれだけ環境に負荷を与えているか(環境影響)を評価することです。インベントリ分析についてはすでに多くの企業が行っていますが、インパクト評価まで行っているところはまだ少ないのです。それでも、日本のメーカーは自主的にきちんと計算して情報開示する風土があります。

本誌:今回の規格改訂で、LCAがより広く、深く使われそうですね。

稲葉:そう願っています。

本誌:さて、先生が専門家として参加しているTC207の分科会SC5ではISO14047(ライフサイクルインパクトアセスメント)とISO14048(データフォーマット)も扱っていますが。

稲葉:ISO14047については2003年10月に発行されたものが2006年にJIS化されます。ISO14048 については、2004年のブエノスアイレス総会でISO化されることが合意されましたが、その後、適用範囲や活用可能性が不明確であることから調査・検討した結果、現存する TS(Technical Specification:技術仕様書)を 2008 年まで維持することが確認され、IS 化の合意は取り消されました。したがって2008 年にあらためて、TS の廃止、IS 化、TR 化のいずれかを選択をすることになります。

本誌:そうすると、ISO14040シリーズについては、しばらくは今のこの形でいくということですね。

稲葉:そうですね。そう思います。

日本のLCAは大半がCO2など


本誌:LCAは「製品システムのライフサイクルを通した入力、出力、及び潜在的な環境影響のまとめならびに評価」とISO14040には定義されています。要は、製品・サービスについて、従来のように製造・使用時の特定物質や有害物質の排出や処分・リサイクルといったところだけを管理するのでなく、原材料の採取から部品製造、製品製造、流通、消費・使用、廃棄・リサイクルまでの全工程、すなわち製品の一生(cradle to grave:ゆりかごから墓場まで)における環境負荷と環境影響を評価する手法ということですね。

稲葉:そうです。ただし、日本企業で取り組まれているのはCO2、エネルギー消費、酸性化の三つが大半です。環境報告書に書いてあるのはCO2だけという企業もあるほどです。

本誌:その理由は。

稲葉:地球温暖化が国の政策課題であるということが大きいです。また、日本にLCAの概念が入ってきた時にCO2の問題がちょうど騒がれていて、私もそうですがエネルギー関係の人が数多く携わったこともあります。エネルギー分析とLCAは似ています。

本誌:外国ではどうなのですか。

稲葉:ヨーロッパでは、対象とすべきインプットとして枯渇性資源、生物資源、土地資源、アウトプットは地球温暖化、オゾン層の破壊、人間への毒性影響、生態系への毒性、光化学オキシダント、酸性雨、富栄養化、臭気、騒音、放射線、事故などが考えられています。生態系への影響まで考えているところなど、LCAへの取組みはとてもさかんです。成り立ちが違うのですね。

本誌:製品のライフサイクル全体で使用されるエネルギー・資源、環境へ排出される大気汚染物質、水質汚濁物質、廃棄物、副製品などを定量的、客観的、科学的に分析して環境影響の可能性を評価する、というのは現実には難しくないのですか。

稲葉:データの収集や分析そのものは、労力、時間、費用はかかりますが、今日のソフトウェア技術やデータベース技術からして、決して難しくはありません。ただし、様々な要素がありますから、単位を揃えるところは厄介です。

LCAの広がりと応用


本誌:今後、LCAはどう広がっていきますか。

稲葉:一つは、LCAを採用する場面です。これは、一製品から企業や自治体、地域全体へと広がっていきます。もう一つは、LCAの結果を消費者にいかに見せるかです。これは、計算結果をどう表現するかということであり、例えば環境ラベルなど、環境コミュニケーションの話になりますが、こちらはより重要です。

本誌:先生がセンター長を務める産業技術総合研究所ライフサイクルアセスメント研究センターは「持続可能な消費」を研究し、従来の生産サイドの研究だけでなく、世界的にも必要に迫られている需要サイド(特にエネルギーシステム)に踏み込んで研究を進めているそうですが、具体的な活動を教えてください。

稲葉:LCA手法研究チーム、環境効率研究チーム、地域環境研究チーム、エネルギー評価研究チームの4チームがあります。LCA手法研究チームは環境影響評価をどう行うか、ということでLCIA(インパクト評価)手法であるLIMEの開発を、環境効率研究チームは環境効率指標をどう考えるか、またLCA解析ソフトの開発、インベントリデータベースの構築を、地域環境研究チームは廃棄物、工場誘致など地域施策に対する環境負荷の影響分析を、エネルギー評価研究チームは需要と供給のエネルギーシステム分析やどういうインフラでCO2対策をするかといった研究を行っています。

本誌:環境効率指標とは、どういうものですか。

稲葉:これはLCAの応用の世界で、同じ価値、機能を実現するために、どれだけの環境負荷を出すのかを示す指標です。例えば、一定の環境負荷をかけることで、どのくらい売上高が上がっているのかがわかります。

             サービス(売上高など)
環境効率= ――――――――――――――――
                環境負荷量

分子は売上高に限らず、利益や付加価値という場合もあります。また、企業の効率だけでなく産業全体の効率も考えなければなりません(図2)。

本誌:ソーシャルLCA、ダイナミックLCAという考え方は。

稲葉:まだあまり普及はしていませんが、私が使い始めた用語です。ソーシャルLCAは、先ほども触れましたが一製品から企業や自治体、地域全体へと対象を広げていくものです。ダイナミックLCAは、時間の変化を追うものです。

本誌:ダイナミックLCAでは、過去をきちんと記録して変化を見るというだけではなく、シミュレーションで未来も考えていくと。

稲葉:そうです。技術変化を考慮して長期変動を見ていきます。

環境教育プログラムの体系化が必要


本誌:最後に、LCAを含め環境問題では人の育成がなかなか難しいと聞きます。先生はエコスペシャリスト研修の講師などもされていますが。

稲葉:これまでの環境問題は生産者の規制中心でしたが、今後は消費者側に目を向けようということで、環境について、一般の人に教えられる人を育てようというものです。

本誌:環境問題は、メーカーであれば環境適合設計(DfE)、特定物質・有害物質の排出や処分・リサイクルですが、オフィスであれば“紙・ごみ・電気”です。環境問題に個人で取り組んでいる方は山、海、川という自然をきれいに、大切にしようという視点ですし、家庭ではごみの分別と環境にやさしい商品の購入です。そんな多様性の中で、環境の専門家を育成するのは難しいそうですね。

稲葉:環境と一口にいっても様々な分野がありますから、それぞれ専門家がいらっしゃるものの、まだ「環境問題とはこれだ」という全体的な体系が確立していないように感じます。また、企業の環境担当と一般企業人、家庭、学生など、人によって教えるべき内容やレベルも変わります。体系化した教育プログラムを社会に組み込んでいく作業が今後必要ではないでしょうか。

本誌:エコプロダクツやグリーン購入といっても、価格や機能、好みもあり、消費者が環境だけですべてを選ぶわけにもいかないのですね。

稲葉:消費者は自分が幸せになるために行動しています。生産者、企業は規制できても、消費者は自分のお金と時間を何に使うかは自由ですから、あくまで自発的な活動になります。また、エネルギーの消費は、問題だから止めますというわけにはいかないのです。ただし、努力によって防げる問題はたくさんありますし、節約と我慢をともなうものばかりではなく、あまり我慢しなくても環境にやさしい行動というものはあります。だからこそ、体系化された正しい知識を多くの人に身につけていただくことが重要なのです。

本誌:大気汚染、水質汚濁、騒音、振動、粉塵、ダイオキシンといった、「企業が地域で起こす」公害問題は、気がついてみれば「地球規模」の環境問題へとすっかり様変わりしました。この変化のきっかけは。

稲葉:やはり地球温暖化問題が顕在化したことでしょうね。公害問題は、「最後のパイプをどう閉めるか」という出口の問題でしたが、環境問題では入口から、まさにライフサイクル全体を見ていかなければなりません。したがって、消費者が製品の使い方に注意しましょうというだけではなく、作り方や捨て方まで全部を考えるLCAが有効なのです。

本誌:本日は規格だけでなくLCAから環境教育まで、幅広いお話をお聞かせいただき、有難うございました。
(取材:アイソムズ編集室)

環境問題を体系化し、教育していくことが必要だと語る稲葉氏。

■環境問題を体系化し、教育していくことが必要だと語る稲葉氏。

図1 LCA国際規格の再編集

■図1 LCA国際規格の再編集

図2 持続可能な消費

■図2 持続可能な消費

<アイソムズ 2006年9月号掲載>

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