特集 続々登場! 地球温暖化防止に挑む、新環境マネジメント規格
環境コミュニケーション規格、ISO14063ついに発行!
CSR時代の環境情報公開ガイドラインとしての活用に期待
環境監査研究会 代表幹事 ISO/TC207/WG4エキスパート 後藤 敏彦 氏
2001年にNWIP(新規作業項目)として提案された環境コミュニケーション規格、ISO14063が8月2日に発行された。様々な混乱から当初の発行予定であった2004年9月からは2年近く遅れての発行ではあるが、折しもCSRに注目が集まる現在、企業の情報公開ツールとしても期待される。WG4のエキスパートとして規格策定作業の当初から参加している後藤敏彦氏に規格の概要とその利用方法について話を聞いた。
ISO14063、ついに発行
本誌:ISO14063「環境コミュニケーション-指針及び事例」が8月に発行されましたが(8月2日発行済)、発行までの経緯について概要をお教えいただけますか。
後藤:環境コミュニケーション規格は、もともとISO14030「環境パフォーマンス評価」を作成しているSC4でスウェーデンが盛んに規格化を提案していたものです。しかし、当時のアメリカ人議長が必要ないと却下し続けたため、スウェーデンはSC4ではなくTC207に直接NWIPを2000年の総会で提出することにしました。そうなるとSC4ではコントロールできませんから、それに対抗してアメリカも提出するということになり、困ったらしいTC207事務局が両者で話し合うように勧めた結果、スウェーデンとアメリカが共同で2001年1月にNWIPを提出することになったという経緯です。
そのNWIPを各国投票にかけて日本を含めて賛成多数を得て作業が開始されています。
第1回のワーキンググループは2001年7月のクアラルンプール総会で開催されたわけですが、この時は、提案国であるアメリカ(議長)とスウェーデン(事務局)が事前準備を充分に行っていたようで、大変スムーズに運び、初日には早くもアウトラインが合意されていました。また、「ISO14063」という規格番号もすでに割り振られていたと思います。さらに、この規格が認証用の規格ではなくガイドラインであることも確認されていました。
ただこの段階では、環境コミュニケーション規格の詳細内容がどのようになるのかということは、まだはっきりとは見えていなかったと思いますが、当初いわれていた環境報告書のガイドラインではないということは、すでに明確にされていました。
本誌:規格のイメージが見えてきたのはいつ頃からでしょうか。
後藤:イメージ自体は2001年10月に配布されたWD1でほぼ見えていました。環境コミュニケーション全般に関するガイドラインであり、その原則、ルール、考え方を述べたものということです。
翌2002年のヨハネスブルグ総会ではWD2が出ており、規格の内容はかなり明確になっていたと思いますが、その頃から多くのコメントがでるようになり、徐々に作業が遅れていきました。
混乱した策定作業
本誌:会議はかなり混乱していたと聞いていますが、当初の発行予定は2004年9月ですから約2年遅れたことになりますね。
後藤:その背景としては様々な事情があったわけですが、特にWG4の会議では、各国の代表が入れ替り立ち替わりやってきて、前任者とは違う発言をするという国際会議の一番悪いパターンだったといえます。
また、DIS承認を予定していた2003年のバリ総会では直前に爆弾テロがあり、テロ地域への渡航を禁止されたアメリカ人議長が参加できず、大幅に予定が遅れたということもあります。
さらにそのように議論が長引いたために、また新しい人がやってきて議論を蒸し返すということも多くありました。
規格発行が遅れた原因としては策定作業そのものよりも、会議自体の進行に問題があったともいえるでしょう。
本誌:全般的には、どのような点が議論の中心となっていたのですか。
後藤:特にコメントが多かったのが原則についてです。最初の原案では原則が30項目くらいあったのですが、それを絞って最終的には五つの原則に落ち着きました。
規格本文に具体的なアプローチ方法を記述
本誌:それでは、ISO14063の概要についてお教えいただけますか。
後藤:ISO14063の構成としては以下のとおりです。
■ISO14063 環境コミュニケーション規格の構成(仮約)
0. 序文1. 適用範囲
2. 用語及び定義
3. 環境コミュニケーションの原則
3.1 一般
3.2 原則
4. 環境コミュニケーション方針
4.1 経営者のコミットメント
4.2 方針の策定
5. 環境コミュニケーション戦略
5.1 一般考慮事項
5.2 環境コミュニケーション目的の設定
5.3 利害関係者の特定
5.4 資源に関する課題の検討
6. 環境コミュニケーション活動
6.1 環境コミュニケーション活動の計画
6.2 環境コミュニケーションの内容,進め方及びツールの選択
6.3 環境コミュニケーション活動の遂行
6.4 環境コミュニケーションの評価
6.5 マネジメントレビューの実行及び改訂の計画
附属書A(参考)JISQ14000シリーズ内の参照表
参考文献
最初に、環境コミュニケーションの守るべき五つの原則として、透明性、適切性、信ぴょう(憑)性、対応性、明りょう(瞭)性があげられており、これらを踏まえて「環境コミュニケーション方針」を立てます。環境コミュニケーション方針は、当然ながら経営方針や環境方針などと整合が取れている方針であることが必要です。
次に、その方針に基づいて環境コミュニケーション戦略を立てるわけですが、戦略は二つあります。一つは全般的な環境コミュニケーション戦略で、もう一つは個別の環境コミュニケーションに対する戦略です。これはISO14001でいえば目的・目標に相当するものと考えていいでしょう。全般的な戦略は環境目的に近い大戦略であり、個別戦略は具体的にPDCAサイクルで回していく戦略となります。
さらにISO14063の特徴として、環境コミュニケーションのアプローチ方法として具体的な事例を規格本文の中に取り入れていることがあげられます。そこには、環境報告書、工場のオープンデイ、ニュースレター、ステークホルダーダイアログなど、あらゆる環境コミュニケーションの具体的なアプローチ方法が列記されており、その特徴、有用性、メリット、弱点、留意点を表で整理しています。
本来であれば、このような具体的記述については附属書に記載とすべきもので日本もそう主張していました。結論としては本文に入れたいという意見が多く、そのまま採用されたのですが、結果的には良かったのではないかと思っています。というのも、システム規格はどうしても条文が抽象的な表現になりがちですが、具体的なアプローチ方法を本文中へ入れたことによって抽象度が弱まり、かえって使いやすくなったのではないかと思っています。
Check、Actは経営判断で
本誌:規格全体としても具体的な記述が多いのですか。
後藤:そうではありません。例えば、PDCAサイクルのCheckとActに相当する部分は条文を極めて少なくしています。これはCheckとActが不要だということではなく、具体的に記述された様々なアプローチ方法に対して、そのチェック方法を書き出せばきりがないし、またその対応策は経営そのものが行うことといえるでしょう。この考え方は人によって違うかもしれませんが、私はISO14063を使用する企業が自分でCheck、Actの中身を工夫し考えて、次のレベルへつなげていけるようにすればいいと考えています。
なぜかというと、例えばISO14001はシステムの改善を目的としていますから極端にいえば、要求事項を満たしたシステムが構築され機能していれば環境パフォーマンスのレベルは低くてもかまわないわけです。
しかし、環境コミュニケーションとは当事者同士が対等に理解を共有し、理解のレベルを深めることを目的としていますから、そこで環境パフォーマンスが悪かった場合、理解を深めるためのマイナス材料になります。そこが環境マネジメントシステムと環境コミュニケーションにおける環境パフォーマンスのとらえ方の違いです。
環境コミュニケーションの観点からは、環境パフォーマンスのレベルが一定以上でないと理解が深まらず不信感を招くと考えられます。しかし、それをどう解決するかはガイドラインの問題ではありません。
ステークホルダーに不信感を招いたとなれば、Planの段階から徹底的に見直すことが必要ですが、それはガイドラインで示すものではなく、経営層が見直し、判断すべきことでしょう。
そのためISO14063ではあえて見直しの方法などについて具体的な書き方はしていません。とはいえ日本から提案したことですが、ISO14001と整合性を持たせてはいます。
本誌:昨今は企業の環境事故など不祥事も多いですが、ISO14063に対してはそのような場合の対応方法を期待する声もあったのではないでしょうか。
後藤:ISO14063には「緊急事態に対する環境コミュニケーションの計画」もあります。しかし、何か問題が起きた時のリスクマネジメントを目的に作った規格ではありません。ISO14063は平常時においてステークホルダーと企業が理解の共有を高めるために行う環境コミュニケーションのガイドラインです。緊急事態を想定して平常時に何をやっておくかという項目はあるのですが、緊急事態のためだけのガイドラインではありません。確かに環境リスクコミュニケーションは環境コミュニケーションの一分野ですが、それがすべてではないということです。
情報公開の意識を向上させる
本誌:ISO14063の使い方としてはどのようなことが考えられますか。
後藤:国内で環境コミュニケーションの取組みがゼロという企業はないでしょう。報告書、ニュースレター、地域住民とのコミュニケーションなど、何かあるはずです。そのような取組みを行ってきた企業が今までのコミュニケーション方法をチェックするツールとして使うことがもっとも多いと考えられます。
もう一つはCSRの観点からの取組みです。今はステークホルダーダイアログが非常に大事になっていますが、企業の取組みの中で例えば、地域とのコミュニケーションを現場はそれなりにやっていたとしても、経営層が直接外部とコミュニケーションをとるということはあまり聞きません。
環境報告書にしても発行企業は800社~900社といわれています。上場企業が3,000社以上あるわけですから、3社に1社程度しか発行していないという現状から見ても、国内企業の場合、経営層が外部コミュニケーションの重要性を認識していないケースが多いことは明白です。今後はCSRの時代に入っていますから、環境面に限らず経営層が外部とコミュニケーションをとらなければいけないケースが多くなってきます。しかし、担当者が外部コミュニケーションを図り、経営に取り込んでいくことの必要性を訴えても、経営層にその必要性が理解されるという保証はありません。
特に、コミュニケーションのためには企業側が様々な情報を公開・提供する必要があります。しかし、情報を外部へ出すことの抵抗はどの企業でも大きいでしょう。そこに具体的な国際規格としてのガイドラインがあれば説明や説得もしやすいのではないでしょうか。
つまりISO14063は、企業の担当者にとっては見直しのために活用でき、これから始める場合にも取組みのガイドラインになります。また企画の段階でも社内的折衝の際に、一つの物差しとすることもできるということです。
CSRとしての環境コミュニケーション
本誌:CSRというお話が出ましたが、CSRコミュニケーションのツールとしての可能性はいかがでしょうか。
後藤:確かに企業のコミュニケーションに関しては環境面だけでなく、CSRがメインになっています。そこでもISO14063はCSRコミュニケーションとして使えると私は思っています。
ただ、CSRは「コミュニケーション」から「エンゲージメント」という考え方に進んでいます。エンゲージメントの和訳は難しいですが、いわば企業とステークホルダーの「協力的関係を築くこと」というイメージが強いと思いますが、ISO14063ではその概念まで踏み込んでいません。つまり、環境コミュニケーションは対等の当事者同士が理解を共有して理解のレベルを高めることが目的ですが、エンゲージメントは共有した後、物事を一緒に成し遂げていくことですから、コミュニケーションからエンゲージメントに発展するかどうかは別問題だと思います。
ですから、ステークホルダーエンゲージメントに対してISO14063がどのように使えるかは別として、エンゲージメントの前段階として理解を共有して理解のレベルを高めるという意味では使えるのではないでしょうか。
本誌:議論の段階で、CSRにまで範囲を拡大する意見はなかったのですか。
後藤:ISO14000シリーズはあくまで環境をターゲットにした規格ですから、ISO14063もCSRにまで広げるという話はありません。むしろ範囲を広げないという話が当初はありました。それは当然のことだと思います。範囲を広げれば議論がまとまらないのはわかっています。今であればCSRの理解も少しは深くなっているのでしょうが、5年前にそのような理解があったとは考えられません。
自社の取組みのチェックツールとして
本誌:最後になりますが、ISO14063を使用する際の留意点についてお聞かせください。
後藤:日本人はガイドラインというと金科玉条と思ってしまう傾向にあります。しかし、ISO14063を使うか使わないかは自身の判断です。ガイドラインとして参考にすることはお勧めしますが、このガイドラインに則って行えばすべてうまくいく、というものでもありません(笑)。
日本の場合、ガイドラインというと法体系の中のガイドラインというイメージがありますが、そうではないということを理解していただきたいと思います。
また、ISO14063に関する解説書を出版する予定もあります。これは規格の逐条解説ではなく、使用のための参考になるような内容にしようということで企画されていますが、それらも参考にしていただいて、よい環境コミュニケーションのツールとして使っていただきたいと思います。
本誌:本日は貴重なお話をありがとうございました。(取材:アイソムズ編集室)
■規格本文に環境コミュニケーションの具体的アプローチ方法を入れたことで使いやすくなっている、と語る後藤氏
<アイソムズ 2006年9月号掲載>

