特集 ISOコンサルタント・ガイド2006
「経営に役立つ」とは軽々にはいえないが、
業務分析に時間をかけ問題解決のお手伝いを
株式会社シスウエイ 品質主任審査員/環境審査員・ITコーディネータ・中小企業診断士 吉田 弘 氏
ISOは認証さえ取れればいいという風潮もある中、企業の業務分析を徹底的に行い、審査員ともやり合って企業のためになる、活きたシステムを構築しているシスウエイの吉田氏にシステム構築法、SOX法対応を含めた経営との関連、コンサルタントの条件などをうかがった。
規格は言葉でなく本質論で
本誌:まず、貴社のコンサル姿勢は。
吉田:大手でも「規格に合わせてマニュアルを作ったらそれで終わり」というところもありますし、自分の経験を押しつけるだけの人もいます。しかし私どもは、品質でも環境でも、まずは業務分析によって業務プロセスを徹底的に見ていくことでお客様の仕事を理解することに時間をかけています。情報システム開発者が行うのと遜色のないレベルの業務分析を行っています。プロセスも営業プロセスなどと大くくりではなく、例えば受注ではどんな受注形態があり、受注の際には何を確認し、どんなトラブルが発生するかまで見ていき、お客様の業務活動の整理のお手伝いをしています。徹底的に確認し、お客様のことを理解することが、当社のコンサルティングの特徴です。
本誌:会社が何をやっているかをすべて見ていくのですね。
吉田:ええ。次の工程に渡す際に指図書を渡す会社もあれば、製造業では部品表や移動表を出す会社もあります。そういう帳票類がどう動くかまで見ていくのが一般的ですから、相当時間がかかることもあります。
本誌:「こうでなければISOの規格には対応できない」と、パターンを押しつけたりはしないのですね。
吉田:会社として業務上困っていることや混乱していることは確実に聞かせていただき、それに対しても「こうすればいい」と簡単な解決をしてしまわないように心がけています。現在の仕組みで問題があれば、ではどんな形が会社にとって望ましいのかを考えますし、逆に、現在の仕組みでISOに対応できて混乱もないのに、よその会社の引き写しのパターンにしてしまうことはありません。
本誌:審査機関ともやり合うとか。
吉田:規格要求事項を満たすかどうかは本質のところで確認すべきなのです。仮に審査員が「マニュアルの文言中にISO規格用語そのものがない」などと納得のいかない指摘をした時は、お客様に審査員忌避のアドバイスまでするのが私どもの基本姿勢です。顔見知りの審査員であっても代えていただいたことがあります。場合によっては、審査員の指摘に対する反論書までお客様に書いていただくこともあります。審査機関との馴れ合いがお客様の迷惑になる状況は避けたいのです。
また、私も審査を行っていますが、コンサルティングを行う上で審査実績を重視していることも当社の特徴です。
本誌:すべてはクライアント企業のためと。
吉田:そういうことですね。ISO9001の2000年版への改訂は、企業の実態に対し、「あるべき論ではだめだ」という転換点でした。ただし、逆に経営者や管理職に対しては強い責任が求められています。ですから、手順書を作ればいいのではなく、必要な時には管理職に取組みを変えてもらうこともお願いしています。そうはいいながらもバランスの問題がありますから、とにかく早く取りたいというお客様に対して、「あるべき論はよくないですよ、足元を固めた方がいいですよ」とまでは申しませんが、トップがあるべき姿を目指すという会社には、しっかり取り組ませていただきます。
本誌:様々な業種の業務分析は時間がかかるのでしょうね。
吉田:当社は製造業出身のコンサルタントが多いのですが、商業やサービス業出身もいて、ほぼ全業種に対応しています。どのような業種でも、きちんと業務分析をすればそれほど困る問題はありません。なお、ISOは大企業からスタートしていますが、今は中小企業が大半です。中小企業ではプレイングマネージャーが多く、日常業務を回しながら品質や環境のマネジメントシステムを構築しますから、形式論ではすまない部分が多いのです。よく話をおうかがいして、「ここまでは規格で求められている水準できっちりと対応すべき」「ここからはお客様のやり方を押し通しても充分」とアドバイスしています。
本誌:コンサルティング期間は。
吉田:平均1年前後です。6ヵ月~8ヵ月くらいで仕組みは作ります。マニュアル、手順書…私は手順書は極力作らず、帳票などでカバーできるものは、それを文書として使っていただいています。誰も見ない文書の山を作っても仕方ないのです。
ISOの効果と経営との関係
本誌:構築の方法は。
吉田:まずはプロジェクトを設置し、主要業務にかかわる方全員に入っていただきます。それも、現場を知らない部長さんではなく、第一線に立っている方、さらに手が空いている方ではなく、いないとまずいような方を選んでいただいています。
本誌:仕事も知っているし、問題点もわかっているからですね。
吉田:そういうこともありますし、できないものは作っても意味がないので、現実に実行できるかです。実際にはやらないけれど、よそでやっているからと規格だけ満たす仕組みを作って、仕事とISO対応は別という形は避けたいのです。文書がゼロでいいということではありませんが、文書のための文書は作りません。一般論でなく、現場の作業マニュアルに近いものが文書としては正しいのです。
本誌:品質マネジメントシステムを導入し、認証を取得する効果は。
吉田:トップの立場からは、形だけの報告でなく、現場の実態を把握しやすくなるのが一番でしょう。また、業務上のエアポケットがなくなります。そして、業務の標準化でカバーできるのは60~70%で、それ以上は経験やノウハウの部分になりますが、その60~70%が誰でもできる状況になり、それをもとに幹部が指導できる状況ができます。コストダウンや業務スピードアップといった業務効率化もありますが、すぐに効果が現れるところは少ないようです。
本誌:ある程度は時間がかかると。
吉田:ええ。また、トップの意識とISO管理責任者、事務局の意識でだいぶ違ってきます。内部監査の時期になると顔を出し、審査機関対応で横にいるとか、いつまでもコンサルタントがはりつかなくてはならないような企業は、ISOの本質が身についていないのです。ある程度のところまでは自力で動かせ、自分で動き、ISOの仕組みそのものや審査機関への対応も自力でできるということは最低限必要です。そして、さらに効果を上げたい場合にはまた呼ばれるというのがコンサルティングの望ましい姿です。
本誌:システムをきちんと回せと。
吉田:そうです。内部監査も第三者審査の準備レベルにとどまっている会社が多いのですが、しっかりした会社はそうではなく、内部監査を「業務上ここはまずいのではないか」ということを話し合い、引っ張り出せるようなものにレベルアップしようと考えています。経営計画も、できることやあげやすいものをあげがちですが、現場で意味のある業務の課題に対するものが上がるようにとサポートしています。ただし、そういうところは少なく、取得された企業でもおもりしなければいけないところが多いのが現実です。しかし、それは望ましい状況ではありません。
本誌:品質や環境、労働安全衛生など、バラバラの仕組みを統合するのは効率面からでしょうか。
吉田:効率ではなく、経営方針の中で品質面に関与するものが品質方針であり、環境面に関与するものが環境方針です。ですから、一つの方針で品質や環境やその他にかかわるものが出てくるはずです。経営方針、経営目標と合致させるためには、複数のシステムを複数のままやっていたのでは、意識が高まりません。
本誌:経営方針、目標とリンクするなら一つになるはずだと。
吉田:ええ。ISO9001などの認証取得が目的ではなく、マネジメントのコンサルを行っているのです。内部監査についても統合し、最終的には業務監査まで行くべきなのです。
本誌:それが経営に役立つと。
吉田:「経営に役立つ」と審査機関やコンサルティング会社はお題目でよくいいますが、本当に役立つかどうかは正直わかりません。少なくても、寄与しようという姿勢は持つべきでしょう。しかし、あまり軽々にそういうことをいう人は、逆に信用できないような気がします。
なお、私どもはISOにとどまらず、一部ではありますが、金融庁のSOX法対応もISOシステムと合わせた形で最近は取り組んでいます。
本誌:中小企業にSOX法対応を。
吉田:大企業は人も資金もありますから、監査法人の言う通りにやっています。しかし、中堅以下の上場企業や、上の会社にいわれ対応が必要な関連会社は一番苦労しています。財務諸表のためだけにSOX法対応を行ったのではコスト的に合いませんから、今あるISOも含めてトータルで運営しなくてはなりません。どちらも経営のリスクという広い意味でとらえてマネジメントできるよう、私どももお手伝いしています。
本誌:貴社の業務分析をしっかりやる手法や経営コンサルのノウハウは、SOX法対応でも生きますね。
吉田:そうですね。SOX法対応では業務リスクとして洗っていき、コントロールマトリックスにまとめますが、この本質はISMSのリスク分析でも、環境影響評価でも、そんなに変わりません。これらがバラバラでは困るのです。また、私も経営コンサル出身ですし、シスウエイの他のメンバーには会計部門出身の者もいます。他のコンサルタントも、そういう面の勉強をして、総合的な対応力をより高めているところです。
本誌:審査員出身の方の場合、規格には強くても経営面があまりわからないこともあるのでは。
吉田:シスウエイのコンサルタントは、審査側から来た人も管理職経験者です。ISOだけ見てきました、事務局経験がありますという人は少ないです。質としては悪い方ではないと思います。
本誌:スタッフは何人ですか。
吉田:東京、大阪で12名です。20代、30代の未経験者を入れていないので数は少ないですが、この他に全国約200名の外部の経営コンサルタントと連携しています。審査経験重視から、社員のコンサルタントは50代以降の方が多く、最高は70代です。お客様によっては、高齢だと聞きづらいから若い人を、という希望もありますが、今のところ30代では業務の中身の理解不足から、パターンコンサルで終わる人が多いようです。指導も教科書的で、泥臭い部分が不足しているようです。
本誌:大規模案件を除き、基本的に1社を1人で対応するそうですが、先方のスケジュールの影響は。
吉田:あります。ウイークデーは時間がないので土日にやってくれというところもありますが、そこは柔軟に対応させていただいています。
本誌:先方も、お忙しい現場の方が土日に出てこられるのですね。
吉田:課長さん以上は勤労奉仕になってしまうかもしれませんが、担当ベースには残業代などしっかり出しているようです。そういう会社でないと、まともな取組みはできないでしょう。グループ会社が一括取得した東京ホールセールさんのケースでは、プロジェクトメンバーが毎回全員、地方からも来ていたこともありますが、やはりトップの姿勢がしっかりしていました。
本誌:そうでないと社員も。
吉田:ついて来ません。あとは任せた、という場合でも、役員1人くらいは参加していただいています。ISOはやらされているという意識が多くなりがちで、「ISOはISO、仕事は仕事」となりがちです。私どもがコンサルした会社でもゼロではないですし、審査した会社でも多いです。
コンサルタントに必要な条件
本誌:コンサルタントに向く人は。
吉田:マネジメントの経験があり、自分の流儀を押し通したり、コンサルタント風を吹かさず、相手の会社を理解しようという姿勢の方ですね。もちろん、コミュニケーション能力も必要です。ただし管理職経験といっても、人にやらせるだけではなく、自分で考える人です。マニュアルを渡して、規格だけ説明して案を作らせて、ああでもないこうでもないと批評だけしてやり直しさせる人もいますが、これでは相手に作業を上乗せするばかりで、力も伸びません。相手の状況に対して適切にものを考えられ、ただしそれを押しつけないことが肝心です。
本誌:自分の考えを押しつけずに、何でもやってあげるのではなく自立してもらうのは難しいですね。
吉田:そういう距離感のとり方の難しさはありますね。できれば経営学の一つもかじっていることが望ましいですが、最低限マネジメント経験ですね。
本誌:IT知識などは、今すぐにできなくても、勉強していこうと。
吉田:そういう姿勢が必要です。業務処理の中でも、ある部分はシステム化して行かざるを得ませんし、システム化で新たに発生する問題もあります。情報トラブルの大半は入力前のチェックですから、責任者がチェックすべきものと担当に任せていいものとを仕分けできることが、情報漏えいでも業務の不正でもSOX法でも重要です。会計事務所は業務パッケージを入れれば解決するといいますが、人間とITとのバランス感覚も求められるのです。システム屋さんになってもらっても困るので、私どももITコーディネータ、ISMSといった、全般統制の専門家を育成しています。オペレーションではなく、経営に近い、ガバナンスの方ですね。
本誌:RoHS指令の影響もあり、ISO9001や14001という一般系の単体が減り、統合系が増える一方、単体では27001や22000といった専門系が増えているそうですが、出身以外の業種や新しい規格を勉強するのは大変ではないのですか。
吉田:お年を召して、もうここまででいいという方もあるでしょうが、40代、50代では幅を広げようという意識をお持ちの方が多いのではないでしょうか。個人差はありますが。
本誌:土日、深夜労働もある中で多くの知識を身につけていくのは大変ですが、皆さんプロだからと。
吉田:しっかりした方は電車やホテルなど、空き時間の使い方は工夫されています。もちろん会社でも研修は行いますが、最後はおのおのの姿勢次第でしょう。
本誌:会社をもっとよくしようと。
吉田:いい会社にするなどとはちょっと僭越です。問題について一緒に考えて取り組んでいこうと。経営者ではなくアドバイザーの立場ですから。
本誌:知らない話も出てきますか。
吉田:ありますが、知ったかぶりはだめで、教えてもらうことです。私も東京ホールセールさんからクリーニングについて多くを教えていただきました。
本誌:本日はご多忙の中、貴重なお話をありがとうございました。(取材:アイソムズ編集室)
■シスウエイの最大の特徴は、規格を言葉でなく本質論で理解していることだと語る吉田氏。
<アイソムズ 2006年10月号掲載>

