特集 統合マネジメントシステム 全体最適化が企業のリソースをパワーアップする

特集 統合マネジメントシステム 全体最適化が企業のリソースをパワーアップする

TQMベースの第三者認証、そして
ISO9000ファミリー規格にTQMの考え方を入れていくことが不可欠


東海大学 大学院経済学研究科 政治経済学部経営学科主任 教授 品質月間委員長 綾野 克俊 氏

過熱する第三者認証は、認証さえ取れればいい、あるいは本業とは別という企業を多数生み出した。認証の種類が増えて企業負担の増える中でにわかに脚光を浴びる「統合化」。TQMモデルは山積する問題を解決できるのか、質経営の権威である綾野先生に聞いた。

TQMモデルによる第三者認証制度が必要

本誌:まず、ISO9001の品質マネジメントシステムとTQM(総合的品質マネジメントシステム)といわれる管理技術・手法とはどういう関係になっているのでしょうか。

綾野:TQMにおいて、品質はすべての経営目標の達成に関連して用いられ、すべての業務の質の改善活動を行うことを目指しています。

そして、品質マネジメントシステムは、TQMの中にある機能別管理(部門横断的管理)の一つと考えることができます。事実、デミング賞受賞企業の多くがISO9001、 ISO14001、OHSAS18001などの認証を取得しています。

ISO9001も、かつてはTQMを強く意識したものでした。ところが1996年にISO14001ができたことで徐々に範囲を絞るようになり、そして2000年改訂で、TQMの定義がISO9001の用語からも外れてしまいました。しかし、品質マネジメントシステムは本来TQMの一環として、その他のマネジメントシステムと共に構築すべきものなのです。

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ISOによるTQMの定義


3.7 「総合的品質マネジメント」
一つの組織の、すべての構成員の参加に基づく、顧客満足を通じての長期的な(事業の)成功、及び、組織の構成員及び社会への利益をもたらすことをねらった、品質を中核とする経営管理のアプローチである。

備考
1.「すべての構成員」とは、組織構造のすべての部門及びすべての階層の職員を意味する。
2.このアプローチの成功のためには、トップ・マネジメントの強力で根気強いリーダーシップと組織の全ての職員の教育訓練が不可欠である。
3.総合的品質マネジメントにおいては、品質の概念はすべての経営目標の達成に関連して用いられる。
4.「社会への利益」とは、「社会の要求事項」の達成を意味する。
(ISO 8402:1994に基づく綾野氏論文より)

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本誌:そうすると、TQMのように「自分の会社をよくする」ためのものと、ISO9001のような「第三者認証」がだんだん乖離していき、「認証さえ取れればいい」となってしまったのでしょうか。

綾野:認証取得だけが目的となってしまい、システムが形骸化しただけでなく、認証を数多く取得しすぎた結果、社内に様々なマネジメントシステムを推進している部門が多くできてしまい、運用部門で整理がつかなくなっているように思えます。数多くの個別マネジメントシステムの第三者認証制度ができてきたことで、制度維持にともなう企業側の負担増、そして社会的コストの増大を招いているようですから、そろそろ一つのTQMモデルによる第三者認証制度を構築する時期に来ているように思います。

本誌:TQMをシステムの中心に置くと、考えやすいのですね。

綾野:デミング賞の関係でかかわった、あるタイの会社ではISO9001、ISO14001、TLS8001(タイ労働規格)を、TQMを中核として統合していますが、日本のTQMのモデルでは、「機能別管理(部門別横断的管理):Cross Functional Management」として、品質、原価、納期、労働安全、情報安全、環境といった機能と、営業・企画、設計、製造、検査、事務という部門とクロスさせ、それぞれどんな作業があるかというマトリックスを作ってシステムを統合しています。

このようなマネジメントのやり方は、トヨタ自動車が最初にマトリックスマネジメントとして、始めたものといわれています。

ISO9001を活かすシドニーモデル


本誌:確かに納期や原価といったものが入って、売上と結びついて利益まで考えるようになれば、経営そのもののシステムといえますね。

綾野:本当に経営に役に立たせようと思うなら、原価や納期という概念は不可欠です。ISO9001のみではパフォーマンス改善には不充分だから追加的な要求事項を入れるべきだという議論はずっとありますし、ISO9001の導入効果を上げるためには、パフォーマンス改善を目標としていく必要があります。

本誌:パフォーマンス改善については、声高に叫ばれてはいますが、解決策が今ひとつ見えません。

綾野:じつはTC176のメンバーとIAF (International Accreditation Forum)から、QMSのエキスパートと審査員、実務家を集めた非公式なグループが、ISO9001審査実務グループ(ISO9001Auditing Practice Group)として結成され、種々のガイダンス文書を発行しています。
URL: http://www.iso.org/tc176/ISO9001AuditingPracticesGroup

ここ(上記URL)のMeasuring QMS effectiveness and improvements(QMSの有効性と改善の測定)についての「APG-Effectiveness.ppt」という資料には、組織が選択可能な卓越モデルやツールとして、バランスト・スコアカード、ビジネス卓越モデル、ISO9001、シックスシグマ、デミング及びジュランモデルがあげられ、その中でISO9001はバランスト・スコアカードやビジネス卓越モデルとの比較で、業績について明示されていないことが指摘されています。

そして、この中でISO9001 Auditing Practice Groupが2003年に開発した「シドニーモデル」というものが紹介されています。これは、ISO9001のデータ分析の目的を組織の品質・ビジネス目標が満たされることを確実にするために用いようと拡張するものです。

つまりQMSの有効性は、顧客要求事項、法令・規制要求事項、欠陥率及び顧客返品、QMS管理、購買といった組織目標と、それに対応して組織が記録した顧客満足、コンプライアンス、品質システム測定項目、検査及びテスト、供給者のパフォーマンスといった組織的結果との間のギャップとして表現でき、ギャップが少ないほどQMSが有効だということになります。これを経営目標とその実績の差異分析に用いようというものです。

本誌:先ほどのタイの会社の場合の統合効果は。

綾野:ISO9001、ISO14001とTLS8001を統合した結果、作業標準の数が3分の1減ったようです。一人当たり生産量も倍増しています。

本誌:統合マネジメントシステムのあり方について、先生はどのようにお考えでしょうか。

綾野:私は、基本的に外形だけではなく、末端まで統合することが必要だと考えています。実際、そのタイの会社にも、「もっと末端まで浸透した形にしなければいけない」と3年前に意見を出したのです。そして今回、その部分はきちんとできていました。この他インドなど、海外の企業では統合システムの成功事例がいくつか出てきており、日本は少し遅れているのかもしれません。

統合で時間とコストを大きく削減


本誌:企業側の統合のメリットは。

綾野:まずは時間の削減です。それぞれの規格要求事項に共通しているものを共通化することで、個別のものよりも時間が削減できます。

また受審回数が減るので、管理事務が簡素化できます。それぞれのマネジメントシステムごとに年1~2回の定期審査があると、その度に推進担当部門・管理責任者・経営者が対応する必要があり、準備作業に多くの時間・費用が必要になります。

さらに、共通の要求事項に関する審査を同時に行うことで、審査工数と審査費用も軽減されます。

本誌:社会全体のコストも減りますね。

綾野:ISO9000シリーズがJIS規格として採用されて間もない1995年の品質管理シンポジウムで、当時の米国モトローラMisczynski副社長によると、世界でまだ27,000組織しか登録されていない当時に、ISO9000シリーズの審査登録制度により、世界中で3兆円産業が生まれたということでした。

これは登録費用だけでなく教育の費用などすべてを含んだものですが、2005年12月現在、世界でISO9001は77万件、ISO14001は11万件ありますから、すでに当時の30倍の規模になっています。また、維持費用が認証一件で100万円かかるとすれば、それだけでも8,800億円ということになります。日本だけでもISO9001は5万件、ISO14001は2万件ありますから、同じ計算で維持費用だけで700億円かかっていることになります。これは定期審査を含めた登録維持費用だけですから、新規登録を考えれば、より大きい数字になります。

しかし、せっかくこんなに認証を取得しても効果が上がらなければ、ただ単に社会的費用や負荷が上がるだけです。今や5~6人の企業でも認証を取らざるを得ないところもありますが、ISO9001だけでなく他の規格もあわせて取得することが取引上義務づけられるような場合、中小企業では維持費用だけでも大変ですから、まさに死活問題になります。

もともと組織の経営管理活動を顧客からみた品質確保の活動という側面から規定したISO9001と、環境影響という側面から必要な活動を規定したISO14001で、コスト面から両立性と整合性のニーズが出てきて、それに応えてISO14001と両立性の高いISO9001の2000年改訂が行われ、またISO9001とISO14001共通で使える品質/環境マネジメントシステム監査の指針(ISO19011)が出ました。これにより統合がしやすくなり、その後ISO9001とISO14001とOHSAS18001の三つ、あるいはこのうち二つの統合の件数はたいへん増えています。

企業の質を改善する経営モデルに


本誌:経営との関係は。

綾野:TQMを経営システムと見ていただいてもいいのですが、ISO9001の2009年改訂では、9001そのものはわずかな改訂ですが、ISO9004の方ですでにJIS化されているTS段階のTRQ0005とTRQ0006を参照文書にすることとなっています。この理念、ビジョンが入ってきますので、これは企業の質を改善するという意味で、経営モデルになってきたということができるでしょう。なお、これまで日本のTQMで培われてきた考え方や手法が多くのJIS規格となり、今後のISO9000ファミリー規格改訂での採用が期待されています。

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期待される日本の規格


・JISQ9005 質マネジメント-持続的な成長の指針
・JISQ9006 質マネジメント-自己評価の指針
・JISQ9023 マネジメントシステムのパフォーマンス改善-方針によるマネジメントの指針
・JISQ9024 マネジメントシステムのパフォーマンス改善-継続的改善の手順及び技法の手順
・JISQ9025 マネジメントシステムのパフォーマンス改善-品質機能展開の指針

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本誌:最近の建築、自動車、乳製品など一連の品質不祥事について。

綾野:システム審査だけでなくパフォーマンス審査を行えるような制度と審査員の育成が必要ですね。そして、適合性審査も規格適合性だけでなく、社会的な適合性を審査していくことに尽きます。

本誌:先生ご専門の品質経営という考え方ですね。

綾野:最近は「品」がとれて“質経営”といっています。ISO9001と同じで製品の品質だけでなく、全体の品質だということです。

本誌:品質管理と顧客満足の関係は。

綾野:品質管理の本来の目的は、顧客満足です。顧客満足は、売れなければ話になりません。そこで競争力という話になりますが、スイスの経営開発国際研究所(IMD)が発表する「世界競争力の総合ランキング」(2006年世界競争力年鑑)で日本は昨年の21位から17位に上がりました。一時期は30番台まで落ちていましたから、だいぶ回復してきましたね。

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IMDの2006年度競争力ランキング


1位 米国
2位 香港
3位 シンガポール
4位 アイスランド
5位 デンマーク
:   : 
17位 日本

以下、台湾が18位、中国本土が19位、英国が21位、ドイツが26位、インドが29位、フランスが35位、韓国が38位となっている。

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本誌:1960年(昭和35年)から開始された品質月間は今年で47回目を迎えましたが、先生は2003年から委員長を務め「いいQの日(11月9日)やクオリティ・ウィーク(11月第2週)を創設されました。

綾野:今年の品質月間(11月1日~30日)のテーマは企業だけの問題ではないテーマにしました。

ここ数年来、重大な品質問題や企業倫理に反するような不祥事が発生し、日本の品質管理活動の徹底不足のようにも見えますが、市場・顧客ニーズを先取りした品質を重視した経営を行っている企業、品質改善活動を継続して実施している企業は、現在も好業績を上げています。

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第47回品質月間テーマ


・「質経営 持続的成長への道」
(Quality Management: the Road to Sustainable Growth.)
・「良い品質で守る生活 豊かな社会」
(Life Secured by Quality leads to an Enriched Society.)

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ここでいう質とは、仕事の質が悪いと、顧客だけでなく会社も社会も損失を蒙りますし、最悪の場合、命まで奪ってしまいます。そういう意味の質です。

企業としてやっているからには、そういう心構えでやっていただきたいものです。それはメーカーだけの話ではなく、行政や医療・福祉、教育といったサービス分野においても必要です。

本誌:本日はご多忙の中、興味深いお話をありがとうございました。(取材:アイソムズ編集室)

統合の時代を迎え、そろそろTQMモデルによる第三者認証制度を構築する時期に来ていると語る綾野氏。

■統合の時代を迎え、そろそろTQMモデルによる第三者認証制度を構築する時期に来ていると語る綾野氏。

■TQMとマネジメントシステム

■TQMとマネジメントシステム

<アイソムズ 2006年12月号掲載>

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