特集 統合マネジメントシステム 全体最適化が企業のリソースをパワーアップする
ゼロからスタートした統合MS、
経営目標と統合されたマネジメントプログラムが大きな成果をもたらす
石川島環境エンジニアリング株式会社 取締役管理本部長(管理責任者) 立矢 久典 氏
石川島環境エンジニアリング株式会社 QE部 部長 小杉 照彦 氏
石川島環境エンジニアリング株式会社 QE部 部長 森脇 聰典 氏
石川島播磨重工業(株)グループの環境専門企業として、環境プラントの設計からメンテナンスまで一貫した製品・サービスを提供する石川島環境エンジニアリング。2003年にISO9001/ISO14001を複合マネジメントシステムで認証取得し、その後JQAの「IMS運用証明書」を取得している。経営システムとの一体化により、業績向上に大きな成果を上げながらも、システムの運用にはまだ改善の余地があるという。同社の統合MSとその運用状況について管理責任者の立矢氏、QE部の小杉氏と森脇氏に話を聞いた。
JQAの「IMS運用証明書」を取得
本誌:最初に貴社の概要をお教えください。
小杉:当社は、石川島播磨重工業(株)(以下、IHI)の環境装置事業部を前身として1984年に分離独立し、環境関連設備の工事の実施、監督派遣、サービスメンテナンスを一貫して提供してきました。1996年には、エンジニアリング業務も取り込み、現在の「石川島環境エンジニアリング(株)」に社名変更しています。
設立当時は、資本金3000万円、従業員も社長以下14名という体制でしたが、現在では資本金は2億円、従業員数は446名(2006年11月時点)となっています。
2006年には、IHIの環境プラント事業部から官公庁向けの水処理事業の業務移管を受け、ごみ処理及び、水処理の設計、施行、運転及びメンテナンスサービスまで、一貫した環境専門企業として活動しています。
本誌:ISOへの取組みについてお教えください。
小杉:2003年にISO9001とISO14001を統合マネジメントシステム(以下、統合MS)として構築し、「ごみ処理施設の設計、施工、運転、及びメンテナンスサービス」を登録範囲として認証取得しています。初回審査は日本品質保証機構(以下、JQA)によるISO9001とISO14001を同時に審査する「複合審査」を受審しています。その後、JQAが実施する統合MS審査の「IMS運用基準」で受審してみてはどうかとの話があり、2004年の定期審査で「IMS運用証明書」を取得しています。
本年10月には、3年目の更新審査を受審し、同時に登録範囲を水処理事業にまで拡大しています。
ゼロからのスタート
本誌:取得のきっかけは。
森脇:顧客である官庁、自治体の入札参加資格にISO9001とISO14001の認証を盛り込む動きがあることに対応したものです。
また社内の課題として、当時は決まった手順書も整備されておらず、ベテラン社員の経験によって運営されていた状況があり、将来の発展のために仕事の仕組みをまとめ上げる必要はありました。そのためにはISOがいいツールになるのではないかと、当時の社長が判断しました。
本誌:推進体制はどのようになっていますか。
森脇:最初に考えたのは、管理責任者を誰にするかという問題です。他社では品質保証部長や環境管理部長など部長レベルが管理責任者になっているケースが多いようですが、それでは統合マネジメントシステムとして全社を統率するシステム構築には役不足だろうと考え、当時の常務に管理責任者を依頼しました。
その結果、強いリーダーシップが発揮され、全社の統率力が強化されたのではないかと感じています。
本誌:モデルとされた統合MSはあったのですか。
森脇:私自身がIHIでISOにかかわっていたのですが、IHIでは最初にISO9001を取得し、数年後にISO14001を取得しています。
そのため審査も別々に受審し、内部監査も別々に行う形を経験しています。その活動の中で統合MSの必要性が提言され、社内のワーキンググループにも参加しました。
その時の経験と、実際に作り上げたIHIの統合MSをベースとして役立てています。しかし、別々に構築したシステムを統合することは大変難しく、徹底された統合MSにはなりづらいものでしたが、当社はゼロからのスタートで、最初からISO9001とISO14001を統合して構築しましたので、その点やりやすい部分は多かったと思います。
業務プロセスを軸とした統合MS
本誌:統合MSの構築はどのように進められましたか。
森脇:ベースをISO9001とし、その中にISO14001固有の要求事項を加えていく形で進めました。
やはり業務プロセスに沿ったISO9001の方がやるべきことが多いことと、当社の場合、環境対策はダイレクトに本業にかかわってくる問題ですから、PDCAサイクルを中心に考えるよりも、業務プロセスを中心に考えた方がISO14001も乗せやすいということです。
本誌:マニュアルは統合しているのですか。
森脇:品質と環境のマニュアルを個別に作成し、その下の規定、手順書も個別に作成すると、いわば一つの国に二つの憲法と関連法令があるような状態になり、双方の整合性を確保することに問題があります。
そのため単一のマニュアルとして作成し、当社の経営システムそのもののマニュアルとして運用しようというスタンスで最初から作成しています。
ただ当社の場合、以前の仕事のやり方は口伝に負うところがあり、また業務も毎年同じ仕事の繰り返しが多いので、わからないことがあっても過去の記録類を見れば大抵のことはわかるという状況でした。そのため、そもそも文書の少ない会社ですから、手順書などはゼロから作成しています。
したがって認証取得のための文書化は、当社としてはかなりのボリュームになってしまいましたが、これはもう少しスリム化できるのではないかと思っています。
多大な成果を上げたマネジメントプログラム
本誌:実際のシステムについて「IMS運用基準」に沿ってお教えください。まずは方針、目的、目標の整合性については。
森脇:マネジメントプログラム上の目標がそのまま当社の経営目標になっています。売上高、利益、固定費など経営指標の目標、顧客満足の向上、仕組みの改善など、ISO9001関係の目標、ISO14001関係の目標、さらに安全衛生の目標まで網羅し、それらに対しての施策、スケジュールを各部門で立てています。
経営と品質、環境などが渾然一体となり、これだけですべてが管理できる形になっています。
この進捗状況を3ヵ月ごとにフォローして、社長と管理責任者のレビューを受けるという仕組みです。当社ではテレビ会議システムで本社と地方事務所がつながっており、各所長と社長、管理責任者が面談形式でレビューできるようになっています。図1は部門の経営計画(マネジメントプログラム)ですが、この上位に全社の3ヵ年と単年度の経営計画があります。それを毎年各部門の経営計画に落とし込んでいます。
当社の統合MSで、もっとも経営に寄与しているものが、このマネジメントプログラムだと思います。
本誌:マネジメントレビューについては。
森脇:図2はマネジメントレビューの管理シートですが、ISO9001とISO14001の要求事項を網羅した10項目のインプット項目を横軸にして、討議したアウトプットをカテゴリー別に分け、インプットとアウトプットをマトリックスにして一覧で見られるようにしています。これ自体がマネジメントレビューの記録となっています。
リスク管理の明確化が難点
本誌:リスク管理については。
小杉:IMS運用基準のうち、「リスク管理」については理解が難しく、特にISO9001には「リスク」という用語が出てきませんから、品質面でリスク管理、特にリスクアセスメントをどのように取り入れていくかが難しい点だと思いました。実際にはリスクアセスメントに相当することは行っているのでしょうが、それをシステムとして明確にし、審査員にも納得してもらえる形にするにはどうしたらいいのか、その点がわかりませんでした。
先日、更新審査を受けた際に「IMS運用基準」についても現状確認があったのですが、品質面でのリスク管理については、もう少しクリアにした方がいいのではないかと指摘を受けています。
本誌:現状ではどのような方法で行っているのですか。
森脇:マネジメントレビューを一つのリスクアセスメントと考えています。
その考え方でリスクアセスメントが充分にできているかどうかは別として、マネジメントレビューをリスク抽出のツールとして活用していることは理解していただいたのではないかと思います。
ISO14001のようなリスクアセスメントの方法もありますが、形式的になりやすく、労力が高い割には思うほどの結果が現われないことがあります。つまり、スコアリングで評価して抽出したリスクと、われわれの経験と直感で抽出したリスクがあまり変わらないのではないかと考えています。
ISO14001の著しい環境側面はスコアリングで抽出していますが、これも結局、経験上から考えられるものと変わりません。
その方法を品質にまで適用する必要があるのかどうか、その点は疑問に思っています。
内部監査のさらなるブラッシュアップを
本誌:内部監査については。
森脇:すべての部門で内部監査員を養成し、現在約30名の内部監査員を認定しています。内部監査員はもちろん品質、環境ともに監査が可能です。
最初の2年間はまだシステムの定着に不充分なところがあり、規定類のチェック、要求事項との適合を確認していましたが、昨年あたりからは改善を主眼にした監査に取り組んでいます。ただ、教育ツールなども用意して監査員の養成を行っていますが、なかなか改善に結びつくような効果的な指摘が出てきません。
監査員の力量にはセンスや嗅覚なども必要で、単なる適合性だけであればチェックリストでできますが、改善のネタを見つけることは個人の能力に依存するところが大きく、難しいということを実感しています。
内部監査については社長からももっと実効を上げるようにと指示が出ており、重要な課題と認識しています。現在の社長は、ISO導入時の常務で管理責任者でしたから、ISOに対する知識も理解も深く、管理責任者時代には内部監査員も経験しているため内部監査をもっと経営に役立てたいという思いを強く持っています。
実際、経営面では統合MSが大きな成果を上げており、業績も年々向上しています。それだけに社長としても期待は大きいものと思います。
本誌:管理責任者として、統合MSにどのような印象をお持ちですか。
立矢:特に先ほどのマネジメントプログラムについては、経営にとって大ヒットだったと思います。
全社、各部門の目標管理を3ヵ月ごとに社長とレビューしていますが、全員が必死で取り組んでいるという印象です。各部門が経営目標数値を与えられていますから、それをクリアしようと、社員の意識は明らかに変わってきたと思います。
その結果、審査費用を含めてシステム構築にかかったコストとは比較にならないほどの成果を上げており、利益率も以前とはまったく違っています。経営ツールとしても管理しやすく、部門ごとに詳細に管理できるようになりました。
ISOの意図を理解した日常業務化
本誌:最後に、今後の課題と展望についてお聞かせください。
小杉:システムの定着化という点で改善する余地があると思っています。まだ事務的に処理している部分も目立ちますし、ISO本来の目的を理解して取り組んでいるかというと、充分ではない気がします。
形骸化という言葉がよく使われますが、帳票一つにしてもなぜ必要なのか、本来の目的を意識してやっているかどうか。確かに日常業務に溶け込ませ意識せずに行えるようにすることは理想ですが、それも本来の目的を理解した上でのことと思います。
そのためには全社レベルの底上げ、特に地方事務所ごとのレベルの差を埋めていくことが必要だと考えています。
森脇:現場からは業務が増えたという声も出ています。確かに何のためにやるのかを理解せずに行っている部分はまだあります。われわれ事務局の説明不足という点も含め、さらに工夫が必要だと思います。
そのためには、もう少しシステムをスリムにして、実務者に「やらされている」という負担感がないようにしていくことが課題です。
立矢:統合MSを有効に活用して、さらに業績を向上していきたいと思います。そのためにはやはり、ISOに対する特別な意識を消し、業務の質を上げていくことが重要な課題だと認識しています。
本誌:本日は、貴重なお話をありがとうございました。(取材:アイソムズ編集室)
■統合MSの定着を徹底し、リスク管理や内部監査をブラッシュアップしていきたい、と語る(左より)森脇氏、小杉氏、立矢氏、山本氏(QE部次長)。
■図1 部門別マネジメントプログラムの例
■図2 マネジメントレビュー管理シートの例
<アイソムズ 2006年12月号掲載>

