特集 統合マネジメントシステム 全体最適化が企業のリソースをパワーアップする
マネジメントシステムは経営そのもの。
すべてを経営会議の場で解決し、次年度の経営資源配分につなげる
株式会社 味の素コミュニケーションズ 取締役 コーポレート本部 経営企画情報部長 松田 安司 氏
事業本部の責任者は、事業戦略や売上、利益と同様に品質・環境・情報のマネジメントシステムについて責任を負い、経営会議で議論する。ISOマネジメントシステムが経営システムと一体化している味の素コミュニケーションズの統括管理責任者に先進的な取組み事例を聞いた。
異なる3社の統合をISOの仕組み活用で円滑に…
本誌:まず、貴社の概要を教えてください。
松田:味の素グループのサービス系企業三つが1999年4月に合併し、当社が誕生しました。工場支援を行う会社、保険代理店や社内販売など従業員に対するサービスを行っている会社、販売促進の会社の三つです。同じ会社でも異なる三つの業務を行っているのが当社の特徴です。
本誌:ISOに取り組まれたきっかけは。
松田:合併当初は、まず人事制度や給与体系の一本化など、根幹にかかわる部分の基礎作りや、請求書などの基幹系システムを構築しましたが、ISOという概念が社会的に隆盛してきて、私どもでも独自に勉強を始めていました。そんなとき、親会社である味の素から品質保証の観点から関係会社に対してISO9001の認証取得を要請してきたのです。海外法人も含めてグループ企業すべてが認証を取得することで、共通言語で語れるようになります。同様に環境問題もあるので、ISO14001はその次に、という要請もありました。こうした要請は合併で混沌としていた私どものニーズにも合うものなので、前向きにISO9001取得に取り組んでみようということになりました。それが2000年のことです。
その結果、私どもではISO9001、ISO14001を取得し、現在ISO27001の取得手続中です。すでに初回審査は終了し、12月に最終審査を受ける予定で今が佳境です。その後、来年はOHSAS18001を取得したいと考えていますので、それぞれの仕事でどういう安全衛生上のリスクがあるかを洗い出すことになります。これについては全社ベースにするか工場関係だけにするかなど、細部はまだ決まっていません。
本誌:中長期計画で、毎年一つずつISO9001の上に乗せていくそうですね。
松田:ISO9001をベースに、そこで洗い出した業務のプロセスや記録・文書に加え、環境の問題はその中でどうなるか、環境リスクも含めてやっていこうと、そしてその上に、どこのプロセスにどんな情報のリスクがあるのかということをやろうと、そしてさらに労働安全衛生をやろうと、この四つを積み上げて、しかもそれを一つにしようという考え方で中長期計画を立て、今3年目です。
トップの陣頭指揮でISOに注力
本誌:社長が推進に積極的だったと。
松田:初代の社長はまず基幹系や人事制度を作ろうというミッションでやっていました。二代目は仕組みの整備に積極的で、ISOのコンセプトを活用しようと先頭に立って動きました。昨年、ISO14001の初回審査の前日に今の三代目社長に変わりましたが、今度はこれまでの路線を継承しつつ、当社のビジネスをもっとよくするには、守りだけでなく中身をもっと活用してプラスにしていこうという流れです。
本誌:まずISO9001の取得にあたり、コンサル会社を利用したのですか。
松田:味の素グループ全体で内部監査員養成講座の講師をお願いしている方にお話を聞き、アドバイスを受けながら内部で構築しました。
本誌:構築で大変だったところは。
松田:販売促進の仕事には、クライアントから夜電話があって翌日の朝までというような案件もあります。したがって顧客の要求事項や記録を取るなどというビヘイビアはなかったので、そういう人たちを意識変革し、根づかせていくのは大変でした。
もう一つは、合併で業務が多岐にわたっていますから、横の人が何をしているかもわからないという状況でした。そこで、まず皆がどんな仕事をしているか、フローを全部洗い出しました。結果として400を超えるフローが出てきましたが、その作業は大変でした。しかし、今まで見えなかった仕事が見えるようになりましたから、やってよかったですね。
本誌:そこは大変だった反面、導入のメリットでもあると。
松田:皆の仕事がお互いに理解できましたし、人事のローテーションにも役立っています。さらに新人採用時の研修など教育にも使え、さらに環境リスクや情報リスクの洗出しや、内部監査の説明などでも使っています。
本誌:合併時には年配の方などもいらっしゃったと思いますが、ISOのような新しいシステムへの抵抗は。
松田:たとえ抵抗があっても、やるべきときはトップダウンでやっていくしかありません。特に二代目社長は、ISOという仕組みを通して会社をまとめていきたいという想いが強い方で、ISOの考え方を経営マネジメントのベースにしよう!と、(すべてが走る仕組みですから)これが方針だ、という強いリーダーシップを発揮してくれました。
経営に活かすISOマネジメントシステム
本誌:ISOを経営と一体化させていますね。
松田:経営会議とは別に品質の会議や環境の会議を持って運営している会社もあるようですが、当社はそれらを最初から経営会議の中に持ち込んで報告、提案、意思決定を行っています。最初から統合化の思想を持っていたのです。
本誌:それはすばらしいですね。後でくっつけるのは大変です。
松田:当初、品質保証会議などは経営会議の下に置きましたが、ISOを進める中で、全部経営会議に上がる仕組みを作りました。ここは当社の特徴といえるでしょう。
本誌:事務局メンバーは何人ですか。
松田:2名です。次から次へと新しいものがありますから大変ですが、事務局はまとめるだけで、各本部に管理責任者を置き、全組織に責任を持たせています。システムは自分たちで動かさないとうまくいきません。事務局はおもりをするだけです。
本誌:管理責任者は事業戦略や売上や利益と共に、品質や環境について、形式だけでなく本当に責任を負っているのですね。
松田:そこを分けてしまっては意味がないのです。本来のマネジメントシステムは経営の仕組みそのものであり、経営会議で決めるための情報を出してやっていく、全部が一つの仕組みなのです。それが理想であり、統合していく理由でもあります。
本誌:ISO9001を導入したことで、ISO14001は比較的楽に乗せることができたのでしょうか。
松田:そうですね。環境のリスクアセスメントなども、販促部門などにはあまりありません。むしろ、今の情報セキュリティの方が大変です。ISO27001は味の素本社も取得していない中で、当社が先駆けて取ろうと頑張っています。
本誌:どの辺が難しいですか。
松田:リスクマネジメントの視点ですね。対象組織にどんな情報があるのかから始まり、それを今どのように管理しているのか、それで大丈夫なのかをきちんと整理しなければなりません。詳細管理策のどこを採用してどこを採用しないのか、それはなぜなのかまで、全部です。そのやり方は、ISO9001やISO14001とは少し違います。
マニアックに走る必要はないですが、コンピュータシステムの専門用語もある程度は知っておかなければなりません。
本誌:文書は、ISO9001をベースに乗せていく形ですか。
松田:まずはいらないものは外し、いるものだけを残します。もしもISO9001の文書の方を直さなければならない場合には直しています。
本誌:ISO27001の文書は。
松田:12月の審査で認証を取得したら、その後に統合します。最初から統合するのではなく、認証を取るまでは「品質・環境マニュアル」と「情報マニュアル」の二本建で走り、認証取得後に「品質・環境・情報マニュアル」という一つのものにします。
基幹職全員がQMS、EMS内部監査員有資格者
本誌:内部監査は。
松田:社内に4本部がありますから、自分の部署が入らないように3人1組で4チーム作っています。
組織変更があった場合も考慮して内部監査計画を作り、それぞれのチームの監査リーダーが個別の計画を作ります。
そして前回の監査結果や親会社の二者監査の指摘なども含め、10月から11月にかけて実行し、結果は経営会議に持ち込んで報告させて11月末の年間総合のマネジメントレビューに持ち込みます。そこですべての問題点を洗い出して、来期のための予算、組織など経営資源配分につなげています。
本誌:会計年度は1月からですか。
松田:いや、4月です。親会社の要請もありますが、予算は12月にすべて決めてしまい、年度計画のプレゼンは1月に行います。連結経営のためにどんどん時期が早まっていますが、少し早すぎる気もします。
なお、もう一つ監査部という社内監査を行う部署があります。こちらは会計や財務などを見ていますが、これと時期を揃えられないか、監査の統合を含めて検討中です。
本誌:内部監査チームのメンバー3人は、それぞれ専門があるのですか。
松田:内部監査員の資格は品質・環境・情報の三つの監査員研修を修了した人です。最初にISO9001を取得する時は、マネジメントのベースとなるので取締役を含めて基幹職(ラインの課長以上)全員に研修講座を受講させ、修了した人を認定しました。その後、環境も合わせています。基幹職昇格にあわせて、ISOの理解、修得のために品質・環境の監査員研修を受講させています。ただし情報に関しては、全員ではなく組織から1名ずつ選ばれた情報セキュリティ基幹職会議のメンバーとプロジェクトメンバーです。
本誌:内部監査員の人数は。
松田:品質は97名、環境も90名います。全社員正社員400名と契約社員などを合わせ計1,600名の社員数に対する比率としては、他社と比べても高いと思います。
本誌:ISO9001、ISO14001と導入して、どんな点が改善されましたか。
松田:それまでは、不適合とされていたものが会社として充分に把握できていませんでした。それが、ISOの仕組みによって事務局から経営に上がるようになり、いつ、どこで、何が起きているかを会社が把握できるようになりました。
また、不適合から原因を分析していくことで、このポイントをつぶせば不適合は減るという形ができました。特に工場系で件数そのものは、隠さずにきちんと上がる仕組みになりましたから減ってはいませんが、原料の誤投入など損害や廃棄にいたる大きな不適合はなくなりました。今残っているのはフォークリフトでちょっとぶつけたというような比較的軽い不適合です。
本誌:以前はいわなかった。
松田:いわなかったり下に隠したりしていたのです。もちろん、部署ごとに解決はしていたのでしょうが、何でも自己完結せずオープンにする仕組みにしたので透明性が増し、会社が現場をきちんと管理するという意味でも役立っています。
本誌:顧客満足にもつながりますね。
松田:そうですね。クレームの適切な管理によって改善につながっています。透明性が高まることで業務の改善につながりますし、お客様満足度調査でのお客様の声にも反映されています。
また、それまで親子会社間でなかなかいいにくかったことも、きちんと書面を交わすようになり、契約内容についても情報を正しく共有できるようになりました。
本誌:グループで1本という連結会計の考え方にも通じますね。
松田:そうです。その他会社法や下請法、独禁法の改正など、社会的な要請とタイミングも合っています。こうした法改正は、すんなりと受け入れられていると思います。
本誌:最後に、今後の方向性は。
松田:労働安全衛生マネジメントシステムが終わったら内部規程などをすべて簡素化しようと考えています。数が少なくても、これだけを守ればいいというものにします。それは、結果として各規格にも適合するものですが、適合することが目的ではなく、会社が適正に事業運営できることが目的です。究極的にはコンプライアンスも含めてすべてがうまくいくのであれば、ISOの要求事項には適合しなくてもいいのです。
本誌:本日はご多忙の中、貴重なお話をありがとうございました。(取材:アイソムズ編集室)
■審査側などISOにかかわる人は皆統合の思想を持って手続きを簡素化してほしい、難しいかもしれないが、判定委員会も一つにすべきだと語る松田氏。
■組織図
■MS概要
<アイソムズ 2006年12月号掲載>

