審査登録機関TOPインタビュー(第9回) ―ISO審査の現状・未来を探る―
ブランド力を背景としたナレッジと質の高い審査を通じて
ISO・MSの重要性を発信し続ける
ビーエスアイジャパン株式会社 取締役 認証事業部本部長 坂口 干城 氏
新製品/サービス主導型の戦略方針
本誌:貴機関の現状とセールスポイントをお教えください。
坂口:ビーエスアイジャパン(以下、BSI-J)の設立は1999年9月で、実質的活動は2000年から開始しています。いわば最後発のグループですが、当時発足メンバーによりBSI-Jの戦略会議を行い、ISO9000やISO14000は主要審査登録機関が大半を占有していましたから、むしろ新規格の分野に打って出てそこでNo1にとの方針のもと、情報セキュリティマネジメントシステム(以下、ISMS)での展開を図りました。
ISO9000やISO14000の審査も当然増やす必要がありましたが、出だしが遅かっただけ非常に苦労しました。その頃は建設業界でISO9000の取得が入札参加要件でしたから、中堅や小規模の建設会社を中心に攻めています。結果、当時のISO9000全登録件数の4割を占め、他の審査登録機関に比べれば建設業の割合は大きかったといえます。残りの6割はサービス業と機械、電気関係で半々の割合でした。
そのような状況下、2000年頃(財)日本情報処理開発協会(以下、JIPDEC)のパイロット事業でISMS立ち上げのタイミングと重なり、私どものスタッフは技術委員会にも協力させていただきました。幸いなことに、われわれの戦略は一定の成功を収め、今日に至っています。
本誌:その後はどのような考えで活動されたのですか。
坂口:後発ゆえにお客様に訴求することが重要で、私どものセールスポイントを有効に発揮しながら進めていきました。具体的には審査の質とブランド力です。
まず審査の質ですが、審査登録機関として売上げを上げることも大切ですが、そのベースとなるのが審査の質です。われわれの審査員認定の仕組みは外部登録資格だけでなく、さらに内部の資格認定制度における認定を必要とします。BSI-J審査員、BSI-J主任審査員という厳格なステップを設け、OJTなどの要求されるトレーニングを積んだ者だけが審査が可能な仕組みにしています。
もう一つのブランド力ですが、BSIはご存知のようにISO9000、ISO14000のもとになる規格を作った組織です。ISMSのISO27000、ISO20000もそうですから、国家規格協会として一番長い歴史と実績を持つ規格開発組織であり、しかも95%以上がISO原案としてほぼそのまま採用されています。これらのナレッジをもとに先端セミナーを率先して開催していますし、年1回の既存顧客を対象とした「カスタマーデイ」ではISOの最新動向などの情報提供をし、ブランド力を発揮しています。
ISO第二世代への序奏現象
本誌:第三者認証制度の現状をどのように認識されていますか。
坂口:ISO9000を例にとると、認証取得件数は累積では伸びていますが、2003年から単年度の伸び率は減少傾向にあります。経産省の矢野氏も著書で述べられていますが、ISO9000を第一世代のISOとすれば、次第に第二世代のISOであるISO27000(情報セキュリティ)、ISO20000(ITサービス)といった規格にシフトし始めていると思います。近い将来、第三世代のSR(社会的責任)規格も出て、マネジメントシステム(以下、MS)に大きな変化が起こると想定して動いていますが、現在の認証件数の鈍化現象は、次なる規格へのバトンタッチの序奏であるとの考え方をしています。
別の言い方をすれば、ISO9000が消滅してしまうのではなく、次世代規格にその根本思想が継承され、引き継がれていくということです。それを理解し、伝えていき、さらには有効活用していくことが非常に重要になると思います。
もう一つは、「ISOは経営に役立たない」というお客様からの意見に留意しなければなりません。あくまでもISOは単なる道具ですから、お客様自身がうまく使いこなせなかった、審査登録機関やコンサルティング会社はうまく使いこなす方法を伝え切れなかったということがいえます。ISOはワールドワイドのベストプラクティス原則を集大成したものですから、上手に使えばかならず良い効果が生まれます。したがって、われわれ審査登録機関はその部分をお客様に気づいていただくため、メッセージを発信し続けていく必要があると考えています。
本誌:有効活用、もしくは役立たせるための方法は。
坂口:審査登録機関としてISO9001の適合性の審査をすることは不変ですが、企業ではISO9004にまで踏み込んだ仕組みを構築することが必要でしょうし、それがベストです。企業が旧態依然としてISO9001への適合にだけこだわると、企業のためにもなりませんし、役立たないと感じる原因ではないかと思っています。
元来ISOはISOを骨格として企業が決めたルールをプラスアルファし構築しても良いのです。自分の組織に求めていきたいことをプラスして仕組みを構築しない限り、最終目標である改善はできないでしょう。
例えば、内部監査の要求事項はISO9001 以外にも、いわゆる企業が決めたルールに基づいて内部監査を実施しても良いと少し幅を持たせています。それを利用しないのは有効活用の点からも非常に残念です。
私どもはそれら独自性を付加した仕組みを構築しているお客様に対しては「グッド・ポイント」として、観察事項で褒めるようにしています。このような点をお客様自身に認識していただき、さらに頑張ろうという動機づけを与えることが、直接指導する立場にないわれわれにとっては非常に大事なポイントです。
本誌:適合性審査の枠内でもそこがポイントになりますか。
坂口:審査登録機関もかなり増えて審査方法も2極化といいますか、分かれてきているように思います。一つは不適合や観察事項の指摘はするが短時間でぎりぎりの工数で終了してしまう機関。一つはプロセス審査を取り入れて、メインプロセスの根幹になる重要度の高い部分まで限られた時間で審査していく機関、そのように分化していると思います。その差異を企業がどう感じられるかが第三者認証制度の意義という点からも重要です。
MS有効活用の3大原則
本誌:有効活用で、企業側の足りない点、改善すべき点はありますか。
坂口:一つは、組織の大小で違ってくると思いますが、全員参加型のISOを構築することです。さらに加えるなら、全社員が内部監査員になるほどの徹底したISO教育をすることです。内部監査をマンネリ化させず、大いに利用することがポイントです。
もう一つは、実務とどれだけ融合させるかで、ISOの有効活用と大きく正比例する点です。極端な話ですが、実務は会社からの要求があって、その要求に社員が応え、評価されて給料が支払われます。しかし何故かISOになると皆ボランタリー的になってしまいます。
しかしISOでも自動車のセクター規格のように実務そのものの規格もあります。実務であれば会社からの要求であり、達成したら今度は評価するという普通のMSの後工程が本来ならあるべきで、ここはISOでは決めていないため、実務との遊離が起こっていると思えます。
本誌:二重のMSは作らないと。
坂口:二重のMSは作らない、内部監査を利用し改善する、不適合は隠さない(笑)、いや、不適合のないMSを作らない、これが3大原則です。特に不適合のないMSはおかしいわけで、当初は是正が多いかもしれませんが、成熟度が上がってくれば予防的観点からの不適合が出てくるはずです。そこが大事なポイントになります。
認定機関を含む一丸の努力
本誌:現行制度に対する意見、提言はありますか。
坂口:一つは、現在ISO9001の登録を返上するお客様、大体50人以下の建設業が多いのですが、理由は公共工事がなく、経費を削減しているため審査費用まで手が回らないためです。その結果、費用が下がらないかとか、安い審査登録機関に切り替えるといった話が出てきます。
要は審査費用の問題ですが、私どものコストには内部の人件費などもさることながら、JABやJIPDECなど認定機関に対する費用もあります。認定機関も値段が下がるような方向で考えていただけると、安い価格で審査することが可能になります。私どもも経営努力で頑張りますが、認定機関にも第三者認証制度という大きな枠組み中で一緒に考えてもらう必要があると思っています。
本誌:現行制度を審査登録機関協議会(以下、JACB)の中ではどう認識されていますか。
坂口:マーケットの健全な運営が目的ですし、お互いのためにもなりますから、大前提は日本におけるISOのマーケットが伸びることで、その障壁となるものはJACBの中で取り除いていかなければなりません。しかし決め事を守らない機関もあるやに聞いていますし、JACBに加入していない、JAB認定を受けていない機関に対して何らかの圧力をかける方法、例えば「クロスフロンティア」方式を厳格に運用する必要もあるのかもしれません。
また審査登録機関としてあってはならないことが認定のサスペンド(停止)です。停止機関が出ることは第三者認証制度自体の信頼性が失われ、確実にマーケットの縮小につながります。そうしてはなりませんし、なによりもお客様に迷惑がかかるということを、すべての審査登録機関が認識しなければなりません。
本誌:他にもありますか。
坂口:最近JAB規定の強化によって審査登録機関の独立性、公平性云々が問われています。これ自体は良いことです。ただ、われわれ外資系審査登録機関からすれば、それならなぜそもそも財団法人系の特定業界の審査会社が成立しているのでしょうか。世界から見ても日本独特の奇異な構造です。もちろん現在はすべての審査登録機関は利害関係をしっかりとマネジメントされているはずですので、この点を強く主張するつもりはありませんが(笑)。
もう一つは、ISO27000の認定機関であるJABとJIPDECの並立問題です。お客様がJABを希望されればわれわれは体制を整える必要がありますから、認定のコストが生じ、それは最終的にはお客様に転化されます。本来あるべき姿ではありませんし、そうならないためにも認定機関がダブルで存在することは避けるべきと思います。
MSの費用対効果の視点
本誌:最後に今後の抱負をお聞かせください。
坂口:第三者認証制度の今後を考えた時、制度の信頼性を担保するためには良い審査によって企業に役立つ、さらには不祥事対応にも有効であることをアピールすることが大切だと考えています。良い審査をするためには、審査登録機関では人件費を含めた管理コスト、認定コストなどがかかりますから、安かろう悪かろうではなく、そのバランスを取っていくことが重要になります。
企業側でもMSのコストと社会不祥事を起こした時のコストを考えた場合、ISOのMSを有効活用し、予防処置などを働かせて社会不祥事を回避できる仕組みを作った方が良いはずです。J-SOX対応などを含め、内部統制のためにISOのMSを有効活用するという認識が大事だと思っています。
その上で、われわれの具体的な活動では、ISO27000は当然のことですが、ISO20000の顧客ニーズに対応すべく体制強化の努力をしています。ここは今後の大きなマーケットに成長すると見ていますし、ISO22000やGHG(温室効果ガスの検証機関の正式指定を受けられる予定)など、新しい分野に積極的に取り組んでいく予定です。
また、事業継続マネジメント(BCM)に焦点をあてた規格BS25999を開発中で、すでにそのベース規格であるPAS56の方は経済産業省の「事業継続計画策定ガイドライン」でも参照されていますし、われわれはすでにBCMに対応した取組みも進めています。さらに、ISO26000(SR、社会的責任)でも、英国規格協会がBS8900をISOのベーステキストにすべく活動中です。
本誌:BSI-Jとしての前向きなお話をありがとうございました。(取材:アイソムズ編集室)
ビーエスアイジャパン株式会社 ―BSI-J― 概要
・本社住所 東京都港区虎ノ門1-2-8・設立 1999年9月
・認定機関 JAB、UKAS、ANAB、JIPDEC
・認証実績 品質1,262件 環境444件 ISMS 628件(2006年3月)
・審査員数 品質90名 ISMS47名(2006年3月) 環境62名(2006年5月)
・その他の認証 OHSAS18001、ISO22000、ISO20000、ISO/TS16949、ISO13485、改正薬事法における第三者認証、
GHG、CSR検証など
■「現在の認証件数の鈍化現象は、次なる規格へのバトンタッチの序奏」と語る坂口氏。
■表1 BSI-J登録組織件数(2006年3月末、JAB調べ)
■表2 品質・環境認証推移(JABアンケート集計より)
<アイソムズ 2006年7月号掲載>

