審査登録機関TOPインタビュー(第10回) ―ISO審査の現状・未来を探る―

審査登録機関TOPインタビュー(第10回) ―ISO審査の現状・未来を探る―

企業のニーズにマッチした、規格適合性を超える審査登録制度の将来像を語る

財団法人 日本科学技術連盟 ISO審査登録センター 所長 上窪 均 氏



創立60周年を迎える“品質管理の総本山”


本誌:最初に貴機関の概要についてお教えください。

上窪:日本科学技術連盟(JUSE)は今年で創立60周年を迎えています(創立1946年)。創立以来、品質管理や経営管理技法を中心とした研究・活動を行い、また信頼性や統計的手法なども含めて国内産業界のモノづくりに貢献してきました。

ISOに関しては、1992年にイギリスから講師を招いてISO9001審査員研修コースを開催したことが最初の取組みになります。その後、審査登録機関としてISO審査登録センターを設立し、1995年には(財)日本適合性認定協会(JAB)から認定を受けています。

本誌:貴機関のセールスポイントについてお教えください。

上窪:JUSEの特徴をあげれば、信頼性、官能検査などをはじめ、様々な管理技法を扱っていることです。またデミング賞を中心としてTQMという概念も普及してきています。それらをバックボーンとして、規格要求事項を超えた審査の視点を持っていると自負しています。

例えば、誤解を招くかもしれませんが、JUSEでは昔から「標準化を見たらいい加減と思え」という精神があります。最初に標準化するのではなく、改善してレベルアップした上で標準化をする。それをPDCAサイクルで回していかないと意味がありません。つまり、標準化とは常に変化するものというスタンスを持っています。もちろんISO規格は否定しませんが、規格への適合だけに満足することなく、常にチャレンジし続けていく審査を心がけています。

本誌:審査スタンスに対する企業側の反応はいかがですか。

上窪:日本の産業構造そのものがサービス業にシフトしている中で、JUSEの管理技法はモノづくり中心と思われており、サービス業でクオリティ・品質向上の意識を持ってもらうことについては苦労しています。

モノであれば長さや重さで測ることができます。しかし、サービス業の場合、何を品質と考えるかと聞くと「ムード」や「雰囲気」など定量的に把握できないものが多くあります。品質の違いがわかることによって改善活動にチャレンジでき、また改善されたこともわかるのですが、そこが難しい課題です。ただ、最近はトヨタ生産方式の「見える化」が注目されており、問題点の可視化に努力するサービス業が増えていることは良いことだと思います。

規格作成と制度運用の両面から見た現状


本誌:第三者審査登録制度の現状についてどのように分析されますか。

上窪:ISO審査登録制度は、規格作成と制度運用が両輪となって推進され、現状につながっていると理解しています。すばらしいISO規格を作成しても制度が悪ければうまくいかないし、逆も同様です。つまり、審査登録制度の現状を考える場合には規格と制度の両方を考えなければいけないと思います。

制度開始から10年経ち、いわゆる「負のスパイラル」問題が起きました。この問題を規格と制度の両面から考えると、規格の解釈や構築方法に関しては、この10年で大きく変わったという印象がありません。規格そのものよりも制度の質が落ちているのではないかという印象があります。特に審査登録機関の立場から見ると運用が細かすぎるのではないかと感じます。

制度運用は国あるいは地域の特性にあった形で運用しないと浸透しないものです。もう少し柔軟な考え方で、ISO規格の良さを活かして制度を運用できないかと思っています。

本誌:規格作成の面についてはどのようにお考えになりますか。

上窪:少し穿った見方をすると、ビジネスとして規格作成に携わる人もいます。自分のビジネスではなく本当に社会のニーズを考えて規格に反映すること、つまり誰のための規格かをはっきりさせれば、より使われる規格になるのではないでしょうか。誰にどのように使ってもらうかを想定しないで規格を作っているために浸透していかないのではないかと思います。

ISO9001の良いところは、例えば、熟練工の技に頼ってモノづくりをしていた頃に比べて、作業を標準化して誰にでもできる手順を確立するというスタンスです。このスタンスは「当たり前品質」を作りあげていくには確かに効果があります。しかし「魅力的品質」を作るためには別のスタンスも必要だと思います。規格作成はもちろん、制度運用面でも考えていく必要があるのではないかと思っています。

ISOに足りない企業のニーズ


本誌:別のスタンスとは。

上窪:ISOの審査は、何がどれくらい足りないかという視点で審査し指摘します。システム上の良い点を指摘することは、審査上は必要とされていません。

一方、デミング賞などは「光り物」といわれる企業ごとの特徴を視点に入れて審査をします。

両者の審査を比較すると、ISOの審査の場合、組織がISO9001やISO14001に取り組む意図と、規格の概念がうまくマッチしていないような感じを受けます。

例えば、マネジメントレビューのインプット項目の中に財務の視点で、ISO9001を取得したことでどのような変化があったか、また新製品開発についてどのような視点でマーケットリサーチに取り組んだかなどの要素は一切入っていません。そのような点が企業側のニーズとマッチしていないのではないかと思います。

本誌:システムを運用する企業側にも問題点は見られますか。

上窪:マネジメントとはISO9001の1994年版では管理者のことではないかと思っていたのですが、2000年版からは明確に経営層のこととなりました。そのあたりからギャップを感じることはあります。

つまり、経営者は“マネーランゲージ”で話し、現場は“ジョブランゲージ”で話します。ミドル層である管理者がバイリンガルです。ISOはトップダウンですが、システムをうまく運用していくためにはミドルの力が非常に大きく影響します。ミドルが関心を持たなければうまく回るものではありません。よく「内部監査がうまくできない」という悩みを聞きますが、そのあたりに原因があるのではないかと思います。

現場は決められたことを決められたとおり一生懸命やっていますが、決められたことを決められたとおりやっていればいいのかという発想をミドルは常に持っていなければいけません。それが改善活動です。

しかし、審査で「改善点はどのようなものが出ましたか」「内部監査でどのような指摘をしましたか」と聞いても、本当にその組織が新しい息吹を持った改善活動をしているのかどうか、経営者の思いを感じるくらいに現場から上がってくるかというと難しいものです。

より製品認証に近づく審査制度


本誌:今後、第三者審査登録制度が果たすべき役割についてどのようにお考えになりますか。

上窪:究極的には製品認証に近いところまで踏み込んだマネジメントシステム審査が望まれるようになるのではないでしょうか。

例えば、食品安全マネジメントシステムなどは、人間が口にするものに問題があれば大変なことですからまさに製品認証レベルまで踏み込む審査が求められると思います。

同様に、ISO9001も本当に品質がどれだけ良くなったのか、そのプロセスを改善することでどれだけ品質が変わったのかという視点が求められるのではないかと思います。

本誌:企業からは付加価値のある有効性審査を望むも大きいようですが。

上窪:組織は良いものを作って顧客の満足を得て会社を継続し、伸びていかなければいけません。良いものを作るには金をかければできるかもしれませんが、リーズナブルなプライスで利益が出るようにして社会の役に立たなければなりません。そのためにISO9001やISO14001は良い仕組みだと感じてもらえるような審査は必要です。

マネジメントシステムの有効性は、最後に顧客に買ってもらうところまでです。自分たちの努力した結果が製品・サービスとなって、それが顧客に伝わり、本当に有効であったかどうかを感じなければいけません。

「視点は低く、視野は広く」といいますが、審査基準はISO9001やデミング賞でも、それを企業が組織全体でどのように使っているか、顧客の視点があるかということに審査では注目しなければいけません。

それが社会や最終ユーザーが求めていることであって、企業が取り組んでいかなければいけない問題ではないかと思っています。

本誌:審査におけるコンサルティング行為の規制が厳しくなっていますが、どのようにお考えですか。

上窪:適合性を超えた活動としてコンサルティング行為は禁止されているわけですが、本当にコンサル行為はいけないのか、という気持ちはあります。

JABは適合性を大前提としていますが、企業側から見ればコストをかけて審査を受けるのであれば、自分たちに足りないものを学びたいという気持ちはあると思います。審査員も会社の仕組みに有効なアドバイスはどんどんやっていく方がいいと思います。具体的な方法論を押し付けることは問題ですが、改善の方向づけを示してあげることは許されていいのではないでしょうか。

今、JABに望む役割


本誌:先ほど「制度の運用が細かすぎる」というご意見もありましたが、今後の審査登録制度に望むことは何でしょうか。

上窪:現在の右肩下がりの時代にJABの役割は大きいと思います。認証件数が減ってきていることは審査登録機関だけの責任でしょうか。一般消費者へのPRなども含めて、JABがまとめ上げていかなくてはいけないのではないでしょうか。

IAFに加盟していますから採択されたことには従わなくてはいけませんが、IAFの指向が各国の事情にあっているのか、もう一度考えていただきたい。今はいかに制度を真に根づかせるかを考えることが必要ではないでしょうか。

例えば、一般消費者は求める品質について曖昧な表現しかできません。そのような声をいかにとらえて、商品企画や技術的なものに翻訳していくか、そこをうまく組織が咀嚼して解釈することが必要です。

しかし、ISO9001はそのような顧客の声を活かすことができる規格ではありません。あくまで作ったものに対して顧客が満足したかどうか、製品・サービスを提供した後のフィードバックしかありません。そのような点が、ISOと一般消費者との乖離が広がっている一つの要因ではないかと思います。

そのような視点をISOの中にもっと盛り込んでいかないといけないのではないかと思います。設計、研究開発、マーケティングの機能をみることのできる尺度、指標など、いわば規格の範囲だけではない視点を持つ審査登録制度もあっていいのではないでしょうか。良い制度にするためには、別の視点も必要ではないかと思います。そして、日本人のやり方にあった形で昇華できるようなことが考えられないかと思います。 さらに日本人が考えた制度はこうだというものを海外に発信していくことも必要ではないでしょうか。

本誌:最後になりますが、今後の展開についてお聞かせください。

上窪:今後の予定としては、食品安全マネジメントシステムの審査を開始します。それもISO22000だけではなく、HACCPや一般衛生管理などとも連携を取りながら進めていきたいと思います。またITサービス規格であるISO20000の審査も計画しています。

JUSEは、デミング賞や品質奨励賞、医療の質奨励賞を運営していますが、内容のすりあわせをして適合性審査に終わらない視点を今後も追求していきます。JUSEが考えているスコープの中で、ISOが占める位置づけをしっかり見据えて審査を行っていきたいと考えています。

本誌:本日は貴重なお話をありがとうございました。(取材:アイソムズ編集室)

財団法人 日本科学技術連盟 ISO審査登録センター -JUSE ISO-Center- 概要

・住所 東京都渋谷区千駄ヶ谷5-10-11
・設立 1995年3月
・認定機関 JAB(QMS、EMS)、JIPDEC(ISMS)
・認証実績 品質1086件 環境249件(2006年3月末JAB調べ)
・審査員数 品質 132名(2006年4月末) 環境63名(2006年4月末)
・その他の認証 OHSAS18001、ISO22000

審査の尺度として、マーケティング機能など規格とは別の視点があってもいい、と語る上窪氏。

■審査の尺度として、マーケティング機能など規格とは別の視点があってもいい、と語る上窪氏。

表1 JUSE ISO-Center登録組織件数(2006年3月末、JAB調べ)

■表1 JUSE ISO-Center登録組織件数(2006年3月末、JAB調べ)

表2 品質・環境認証推移(JABアンケート集計より)

■表2 品質・環境認証推移(JABアンケート集計より)

<アイソムズ 2006年8月号掲載>

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