審査登録機関TOPインタビュー(第11回) ―ISO審査の現状・未来を探る―
審査機関としての責任と役割を果たすため
「良い審査」と内部努力を通じて定着化へ数々の方策
株式会社マネジメントシステム評価センター 代表取締役社長 阿部 章 氏
安定した経営基盤による変化への対応
本誌:まず最初に貴機関の概要とセールスポイントについてお教えください。
阿部:MSAは1996年9月20日の設立ですから、ISOの草分的存在で、設立時は建設、鉄鋼、電力、金融、損保など様々な分野の13団体の支援と61社の株主の出資を仰いでいます。その安定した経営基盤をベースに、これらの方々との情報交換やご指導により、将来を見据えた経営方針を立て、今日まで堅実に発展してきました。
また、これによりMSAは時代に即したニーズをキャッチでき、きめ細かな対応もいち早くできます。費用対効果、審査の効率化などが厳しく求められている時ですが、そのような変化に対する社内業務の効率化、お客様中心の体制作りなども実施しています。
もう一つは幅広い審査分野を持っているということもあげられます。建設業を核として、警備業、清掃業、運輸、倉庫業、廃棄物処理業、再生業などの関連業種、それから環境関連産業や公共行政、介護事業、美容室、サービス業までいろいろな幅広い領域に審査の範囲を拡大しています。これもやはり10年という歴史の中で、ニーズをとらえて臨機応変に対応してきた結果だと思います。
したがって認証登録件数も約3,000件で、それぞれの特徴に応じてJAB(日本適合性認定協会)では品質と環境、RvA(オランダの認定機関)では労働安全衛生、JIPDEC(日本情報処理開発協会)ではISMSの認定を受けています。
さらに、今秋からは新JISの生コン及びコンクリート二次製品に関する製品認証も取得する予定で、現在、申請書類を提出し審査中という状況です。
質の高い審査による生き残り戦略
本誌:現在、適合性審査の価値が大きく変わってきていますが、その点はどうでしょうか。
阿部:MSAの登録件数で見れば全体に認証取得は鈍化しています。特に建設業の新規登録が減り、取消しも増えている状態が続いています。しかし一方では審査機関の数は増えていますから、いろいろな面での競争、特に低価格競争になっていると認識しています。これは将来は品質競争、「良い審査」の競争につながっていくと予測していますし、また第三者認証制度の社会的な必要性もおそらく増すだろうと思います。
そう考えた時、MSAとして何ができるかですが、新規登録が減っているということは、逆にいえば少し時間的余裕、あるいはゆとりができることになります。したがって、この機会を利用して、体質改善を図る絶好の機会だと思っています。
また新たな発展のため、取消しなどの案件に対してもっと組織とコミュニケーションをとり、組織の実情、要望、審査に不足している点、費用対効果の問題などを理解する必要があります。単に倒産した、営業上利益が上がらないという理由を聞いているだけでは何も進歩がありません。今後ISOが定着し普及するという確信のもと、次につなげられるものにしていかなければならないと思います。
別の面では、入札条件で必要とか、取引先の要請などがISO取得の要因でした。しかしここまで膨れ上がったのですから、定着化を図る責任もあります。現状を悲観的にとらえては社長失格です。たくさんの優秀な人材がMSAに所属していますから、当社の人材を活用すれば必ず組織の発展に寄与できると確信しており、定着化を進めたいと思っています。
本誌:「良い審査」の競争という意味を具体的にお教えください。
阿部:審査機関として普遍的に追求している「良い審査」のことを、MSAでは「手作り審査」といっています。「組織の実情を理解し、わかりやすく、組織のためになる信頼のおける審査」のことです。組織とのコミュニケーションを充分取り、特に経営者の方に対しては方針や経営に対する様々な想いをよくお聞きするようにして、その上でその組織の成り立ってきた経緯や風土を把握して審査するという意味です。さらに、費用対効果も非常に大きな課題ですから、審査の効率化も踏まえての取組みにもなります。
また、規格に偏ってシステムだけに着眼するのではなく、コンサル行為に抵触しないよう審査機関として許される範囲内でパフォーマンス改善へのコメントなどを取り入れ、経営やISOの有効性を高めるものに変えていくことも含んでいます。他の機関も言っていますが(笑)。
さらに、審査員と組織の信頼関係も大事ですから、MSAでは審査員は同一組織に対して3年間継続的に審査をし、4年目で交代することを原則としています。審査機関の都合による配置や効率化で代えるのではなく、組織のためを考えて配置することでもあります。
審査員の力量アップと内部の工夫
本誌:「手作り審査」には審査員の力量が問われますね。
阿部:審査員は品質が305名、環境で178名、労働安全衛生で35名、ISMSで18名と大人数ですが、品質、環境両方持っている審査員もいますから、実際の人数は個別に足した数より少なくなります。
その審査員の力量向上のための教育訓練、評価には非常に力を入れており、かなりの部分をMSAの独自負担で年40回ほど研修会を招集しています。だんだん年齢層が上がってきていますから、将来を見据えて現在、若返りを考えている最中です。また審査技術だけではなく、審査員の人間性の教育もあわせて行い、単に規格の知識を向上させるという形だけにとどまらない教育内容になっています。
本誌:審査のための社内独自の工夫はあるのですか。
阿部:組織に役に立つことを狙っていますから、組織を細かく調べますし、審査員も経歴や得意な分野を調べて手配しています。さらに、良い審査をしても組織とのマッチング問題もありますから、その点などを細かく見て、適切な人間を配置しますし、もし、ミスキャストがあった場合は、すぐ適切な人に代えています。本来であれば組織に近い地域の審査員が効率的にはいいのですが、わざわざ遠くから連れてくるなどの配慮もしています。
本誌:この制度の果たすべき役割はどうお考えでしょうか。
阿部:登録を受けた組織がお客様の信用を得ることだと思います。あの会社に任せれば安心できると、エンドユーザーの方がサービスや製品を購入していただけることに尽きます。そのために審査機関が信頼性の証を組織に示すことがわれわれの役割であり、適合性評価のコンセプトではないでしょうか。
第三者認証の意義と信頼性確保
本誌:社会からの信頼性についてですが、耐震強度偽装事件のような不祥事は審査機関としてどのようにお考えですか。
阿部:意図的に行われた場合にどこまでシステムが有効かということです。システムで一部は対応できますが、システムそのもので抑えようとすると、チェック、チェックと非常に重くなってしまい、その限界があります。また、一つひとつの結果を見る、いわゆる「検査」ではありませんから、意図的なものに対しては難しい面があるのは確かです。
本誌:JAB Noticeを受けてJACB(審査登録機関協議会)から方向性が出ていますが。
阿部:意図的法令違反を知り得た場合はすぐ調査をし、再審査をするか、あるいは是正処置を要求し、システムが適合状態になった場合はもちろん登録継続ですし、それが適合状態でなければ登録を取り消すという形になっています。
ただ、マネジメントシステムが単独で社会全体を良くできるというものではありませんから、多くの社会にあるシステムと協働して取り組むべきだと思っています。例えば意図的法令違反に対しては、検察も警察もあるわけで、その一翼を担うのが審査機関という意味です。
逆に、当たり前ですがISOの審査機関というのはシステムを審査し適合というOKサインを出しているわけです。しかし一般の方々にはそういう意識はあまりなく、サービス、製品、あるいは結果について、OKを出しているのにおかしいではないかという認識です。このこと自体が過大期待かもしれませんので、正しい情報を伝えていくことも重要だと思っています。
特に今の規制改革は官から民への移行を目指しています。今後もその傾向は増大するでしょうから、なおさら第三者認証制度の意義について明確にしておかないと、誤解され、信頼が失われてしまう可能性があるのではないでしょうか。
本誌:現行制度に対する意見はおありになりますか。
阿部:やはり取得企業の不祥事に尽きます。耐震強度偽装や粉飾決算の問題、自動車の欠陥もあり、認証制度に対する信頼性が揺らぐことが一番の脅威です。
もう一つはISOが役に立ってないという意見があります。ISOの書類と日常業務の書類との二重性やシステムの形骸化が指摘されていますが、その辺もわれわれとしては一番の問題です。
定着を図るために乗り越えなければいけませんし、今そのしわ寄せが来ているとの見方もありますが、いい形でそのしわを伸ばし、役に立ち、効果が目に見え、結果が出るような形にもっていくことを考えるべきだと思っています。
ISO定着と普及への取組み
本誌:抱負をお聞かせください。
阿部:審査分野に関しては、本音をいうと1~2年は新規分野に積極的に進出する予定はありません。現在認定範囲39分類中24分野で審査できますから、その中で食品、輸送、介護、サービスなどを重点志向で進めていきます。
もちろん建設を核として進めてきましたから、より一層「手作り審査」で評価をいただき、この分野では絶対という評価を社会からいただきたいと思います。
システムに関してはISO9001、ISO14001、OHSAS18001、ISMSと四つのシステムを持っていますが、当然ISMSは力を入れて全面的に営業していきますし、新たにISO20000やISO22000についても研究をしている最中です。その中である方向性を見出した時に積極展開したいと考えています。
またCSRやリスク管理、トータルマネジメントシステムなども常に目を光らせていますし、複合審査に対応できる審査員を現在拡大養成しています。複合審査は150件以上審査していますが、組織にとっても時間、コストの効率化が図れますからニーズも大きく、それに対応できる体制そのものを順次整えています。
また内部的には、費用対効果は必ず追求しなければいけないと思っています。これは審査そのものの質を変えずに、内部経費を極力削減する、中でも交通費などの間接経費について、効率化を図って低減していきたいと思います。審査機関ですから一定の利益は追求しますが、それよりも継続的に安定してシステムを維持していただく方が大事で、その分コストを下げてお客様に認めていただきたいというのが本音です。社内のムリ、ムダ、ムラをなくすとか、いろいろな形で今一生懸命やっているところです。
本誌:最後に付け加えることはありますか。
阿部:2005年11月半ばに建設会社から出向し、今年の6月に吉野前社長の後任として社長を引き継ぎました。現在58歳ですが、設計で約18年、現場の施工で同じく18年です。モノ作り人間で、ISOの審査機関では新人というか初心者並みです(笑)が、MSAが社会から信頼できる審査機関と評価され、発展することを目指していきます。それとともに、トップレベルの審査機関の責任ある役割として、ISOの定着と普及を吉野前社長に引き続き果たしていく必要があるとも考えています。
本誌:新社長としての忌憚のないご意見をお聞かせいただき、ありがとうございました。
(取材:アイソムズ編集室)
株式会社マネジメントシステム評価センター -MSA- 概要
・住所 東京都中央区日本橋本町2-4-1 日本橋本町東急ビル8F・設立 1996年9月20日
・認定機関 JAB(QMS、EMS)、RvA(OHSAS18001)、JIPDEC(ISMS)
・認証実績 品質2,569件 環境430件(2006年6月末JAB調べ)ISMS19件(2006年7月JIPDEC調べ)労働安全衛生31件
(2006年7月MSA調べ)
・審査員数 品質305名、環境178名、労働安全衛生35名、ISMS18名(2006年7月)
・その他の認証 上記4規格の複合(統合)認証 新JIS製品認証(予定)
■第三者認証制度の社会的な必要性は増すであろうとの予測のもと、質の高い審査と内部努力を行っていく、と語る阿部氏。
■表1 MSA登録組織件数(2006年6月末、JAB調べ)
■表2 品質・環境認証推移(JABアンケート集計より)
<アイソムズ 2006年9月号掲載>

