審査登録機関TOPインタビュー(第12回) ―ISO審査の現状・未来を探る―

審査登録機関TOPインタビュー(第12回) ―ISO審査の現状・未来を探る―

社会はISO9001に何を期待しているのか?
第三者審査制度と社会的メカニズムの関係を明らかにすることが
現状打開のために急務


財団法人 建材試験センター ISO審査本部 ISO審査本部長  森 幹芳 氏


建設業のパイオニア&リーディング審査機関


本誌:最初に、貴機関の概要とセールスポイントについてお聞かせください。

森:建材試験センター(JTCCM)の特徴としては3点あげられます。

1点目は1995年に建設業初のISO9001審査登録(戸田建設)を行い、その後も大手から中小ゼネコンを中心とした審査登録を行ってきた、建設業のパイオニア&リーディング審査機関であると自覚しています。

現状では、約2,000件の登録発行番号のうち約500件が欠番となっていますが、これは組織のシステム統合によるものがほとんどです。当初はゼネコン1社で支店数によって20件くらいの認証がありましたが、それが統合されて1件の登録になったということです。そのようなゼネコンが40~50社ありますが、逆に1件ごとの対象人数が多くなっているのも特徴です。

2点目は、各ゼネコンの品質管理部経験者を中心として、建設専門の審査員がもっとも充実している審査機関だと思います。

建設というと施工だけの印象があるかもしれませんが、JTCCMは国土交通省と経済産業省の共管団体として、材料、設計、施工と建設産業の重層部分を審査することが可能で、各専門性で対応できる審査員を確保しています。

3点目は、前述のように国交省と経産省共管の中立的な財団法人ですから、営利目的だけの審査機関ではありません。

社会に対して何が貢献できるかということで、審査登録の他にも製品認証、性能評価、試験事業、また建設関係の標準化事業など、建設産業の品質確保の下支えも行っています。

建設業の審査登録、その現状


本誌:昨今は建設業の登録辞退が増えているようですが。

森:JTCCMの顧客層は3割が材料、部品、プレフハメーカーなどで、この層は入札条件とは関係ありません。後は4割が大手・中堅ゼネコンでISOに関しては静観している状態です。

不況のあおりを受けているのは残り3割の中小・零細建設業ですが、その割合は他機関に比べると少ないと思います。中小・零細でもがんばっておられる企業はたくさんありますが、もちろん登録辞退がまったくないわけではなく、「ISOどころではない」と悲鳴が聞こえてくるのも事実です。

本誌:そのような建設業の登録状況をどのように分析されますか。

森:当初、建設業の審査を開始するにあたって、一体何社くらいが認証取得をするのかと考えた時に、大体3,000社くらいだろうと予想していました。今のような状態は夢にも思っていませんでした。今後は、維持、持続できる範囲に納まっていくと考えています。入札条件になるからと、あおられた結果の揺り返しが来ていると思います。

社会はISO9001に期待している?


本誌:審査制度開始から10年経ち、どのような点が変化してきたとお考えですか。

森:審査を開始した10年前と比較すると考えなくてはいけない要素が複雑になっていると思います。

社会的な背景としてCSRや、新しい固有技術の問題、建設産業の重層構造にも大きな変化が出てきています。ISO9001はベーシックなマネジメントシステムのツールですから、建設物との相関関係がはっきりしない場合もあり、対応が難しいということです。

例えば構造計算偽装問題についても、なぜISOの審査で見抜けなかったのかといわれます。しかし、法規制への対応など、その責任構造が各所管機能に分散されていることが建設産業の特徴で、すべてを疑っていくということには無理があります。社会がISO9001にどこまでの期待を持っているのか、ということが大変気になっていますが、データ不足で客観的な判断ができないということが大きな悩みです。

本誌:消費者の苦情などから見えてくるものはありますか。

森:われわれの審査がよかったのか悪かったのかという反省を苦情から考えると、マネージ範囲以外の周辺領域の問題が大きくなっていますが、その時にわれわれが審査するマネジメントシステムの範囲でどこまで改善を求めていくことができるのかを探求しています。

社会的メカニズムと第三者審査


本誌:その中で第三者審査機関にはどのような役割が求められると思いますか。

森:市場メカニズムが取引きの円滑化、信頼性をキーワードとすれば第三者審査の役割も明確になると思いますが、逆に監査法人など、第三者自体が問題視されている状況で、果たして日本の中で第三者認証制度が本当に役目を果たせるのかという疑問はあります。

現状はそのようメカニズムではなく、「早く、楽に、簡単に」認証取得できる方向への流れもあり、信頼性の評価が高い機関へ行くべき市場には道が遠いと思います。

本誌:審査機関と企業の関係自体がおかしくなっていると。

審査の原則からの乖離


森:第三者であるべき審査登録機関が、なぜ第一者の方に傾く傾向にあるかは発注者である第二者の評価が把握しづらいという問題もあるためです。第二者がISO9001をどう見ているのか。例えば、国交省がISO9001の入札資格条件を取り止め、監督行為の低減としての活用に入りましたが、これなどはシステム認証という概念が日本の中で評価されにくい代表例ではないかと思います。

発注者は製品認証など個々の製品保証は積極的に求めますが、その製品・サービスを提供するシステムが確実に保証されていれば、限りなく良い製品が提供され、安心できるというシステム認証の構造を、10年経った現在でもあまり評価していないということでしょうか。

そこが動いていないために、登録証の有無のみで、審査登録機関の良し悪しまで問われていない状況です。かろうじて一つの傾向として見られるのは、国交省が活用工事で審査報告書の提出を義務づけていて、その審査報告書で審査登録機関の力量の差が明確になると思い、JTCCMでは力を入れています。極端にいえば、審査報告書が社会に公開された時にどれだけ評価されるかということを想定しています。

本誌:今後の制度はどのように変化する必要があるとお考えですか。

森:やはり二者対策だと思います。ISO17021ではクライアントとカスタマーを含めた広義の「顧客」という概念が出てきましたが、これで審査登録機関、JABも顧客の評価を分析する必要が出てきました。

かつてJABが行っていたアンケートも主として登録組織に対して審査は役に立っているかという視点でしたが、社会がこの制度をどのように評価してISO9001を必要としているか、役に立っているかという問題へもっと目を向けるべきでしょう。

また、ISO17021では審査登録機関の信頼条件(6原則)がようやく明確になりましたから、充分な審査という立証が求められるだろうと思います。

審査は“創造的作業”


本誌:審査自体に変化はありますか。

森:様々な情報が氾濫する中で、審査の原則論がだんだん見えにくなってきたという気がします。

そのためJTCCMでは原点に返ろうと審査員の検証審査を行っています。人間は時間が経つとどうしても自己流になりがちです。原則に絶えず戻らなければいけないことが、周辺に拡散している印象があります。

何のために第三者として審査をするのか、この規格は何のツールなのか、どうすれば効果的なのか、どうすれば企業に便益をもたらし、社会に便益をもたらすメカニズムへいかに1歩でも近づけるかを考えることを愚直に行うことが今は必要ではないかと思います。

本誌:具体的には、どのような審査が必要になるのでしょうか。

森:様々な問題点をISO9001や14001の中で解けないかという視点で見ていくと、いろいろな角度の質問の切り口や審査の方法が見えてきます。結局はリスク管理として問題点を見つけ出す審査機関、審査員の能力の問題であり、創造的作業です。

要求事項だけをチェックしていくのが審査だという考え方もありますが、私自身は設計事務所出身で創造的作業が好きです。審査がその点といかに一致するのかを当初から考えていましたから、企業を診断して問題点を見つけてあげることは創造的作業ではないかと思っています。

審査員の専門性


本誌:審査とコンサル行為の境界についてはどうお考えですか。

森:適合性と有効性の違いだと思います。有効性とは企業の目標に対してシステムが有効かということですから、この関係においては企業がシステムをどう使おうとしているかに対して、有効性という視点である程度のことはいってもいいのではないかと考えています。

規格要求事項に適合し、最低限のことはやっていても、さらに高い目標を掲げれば、そのシステムにはまだまだ改善の余地があるはずです。そのような企業の姿勢にはきちんと審査で応えていきます。それが原点であり、目指すべきところだと思います。ただし、具体的勧告なしという条件つきですが(笑)。

本誌:そのような審査には審査員の力量が重要ですが、審査員教育にはどのように取り組まれていますか。

森:現在では、集合研修から審査員のセンスアップを目的としたマンツーマンの教育に移っています。その場合、審査員の個人データをいかに客観的に集めるかが課題となりますが、前述のような自己流の審査にならないように監視できる評価システムを作り上げて、実施し検証し、その評価を力量に置き換えて個人の力量を研鑽していく、つまりISO19011のループを確実に回せる方法をようやく完備した状況です。

本誌:審査員の力量として、もっとも必要なものは何でしょうか。

森:マネジメントシステムに有効性を感じている企業に対してはそれなりの審査員を送らなくてはいけません。この企業はどこが変化しているか、どこを悩んでいるのか、それをある程度推定して審査で事実を確かめて問題点を指摘するとなると、問題は審査員のマネジメントの理解力と専門性です。

そのために登録企業のカルテとして今までの経緯などをまとめたデータベースがあるのですが、そこから状況を予測します。さらにバックグラウンドのツールとして審査員の専門性を確保するための「分野別専門ガイド」として業種ごとに審査員が最低限知っておくべき項目、例えば、法規制、顧客層、バックグラウンド、基準類、さらには過去のクレーム例など、200~300項目を集めたガイドラインがあります。これらの情報をチームリーダーに与えて審査を行い、その審査に企業が満足するかどうかを把握し、問題点を改善するという、その絶え間ない活動を繰り返しています。

初志貫徹で取るべき道


本誌:最後になりますが、今後の展開についてお教えください。

森:審査現場では聞こえてこないトップや管理責任者の声に、もう一度耳を傾け、審査登録機関としてできることを考え、この10年で積み重ねてきたデータや経験を少しでも登録企業や社会のために還元できればと思います。

また、変化には柔軟に対応していきますが、初志貫徹で変えないところは変えず、一歩でも前進する姿勢だけは示して行きたいですし、その姿勢だけは崩したくありません。

国内のISO審査制度開始から10年経ち、大きな変化の波がきていますが、それによってこれからの10年がどのように変化するのか、逆にそれを楽しみたいと思っています(笑)。

本誌:本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。(取材:本誌・編集室)

財団法人 建材試験センター ISO審査本部 概要

・住所 東京都中央区日本橋茅場町2-9-8 友泉茅場町ビル3F
・設立 1993年11月設立
・認定機関 JAB
・認証実績 品質1316件 環境303件(2006年6月)など
・審査員数 品質96名(2006年7月末) 環境30名(2006年4月末)など
・その他の認証 OHSAS18001、ISO27001

社会全体が審査登録制度をどのように評価しているのかという問題へ目を向ける必要がある、と語る森氏。

■社会全体が審査登録制度をどのように評価しているのかという問題へ目を向ける必要がある、と語る森氏。

表1 JTCCM登録組織件数(2006年6月末、JAB調べ)

■表1 JTCCM登録組織件数(2006年6月末、JAB調べ)

表2 品質・環境認証推移(JABアンケート集計より)

■表2 品質・環境認証推移(JABアンケート集計より)

<アイソムズ 2006年10月号掲載>

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