審査登録機関TOPインタビュー(第13回) ―ISO審査の現状・未来を探る―
若手審査員育成が喫緊の課題、
若い世代に魅力のある制度にならなければISOに将来はない
株式会社 ジェイ―ヴァック 代表取締役 森田 允史 氏
「新しい発想」の審査
本誌:最初に貴機関の概要についてお教えください。
森田:J-VACの設立は2002年6月になります。設立の主旨は、「新しい発想」の認証です。
「新しい発想」とは、「Japan Value-Added Certification」という社名のとおり、真に企業の業績に役立つ「付加価値」のある認証サービスを提供していくための考え方であり、いかに審査員が経営的な部分も理解し、ただの文書や記録の審査ではなく、真の規格適合性を審査することです。
その結果、設立から4年、J-VACの考え方を理解いただける組織に対し、延べ600件以上の登録証を発行しています。
ISO審査は企業の業績に役立たないといわれていますが、第一の理由は過剰な文書化要求など規格にも問題がありました。
ISO9001が94年版から2000年版に改訂された時、私は文書類などのハードを見る審査ではなく、システムであるソフトを見る審査を行うべきだと主張してきましたが、いまだにほとんどの審査登録機関がハードの審査を行っています。
現在、認証辞退が進んでいますが、それは企業側の活動とISOの活動がマッチングされていないことが大きな原因です。そのためにも審査の考え方を変えていく必要があります。
真の「付加価値」とは
本誌:「付加価値」のある審査とはどのような審査だとお考えですか。
森田:審査の付加価値について間違ったとらえ方をしている審査機関が多く見られます。何を間違えているかというと、ISOの要求事項にプラスアルファすること、例えばISO9004のような内容を要求することだと思っている点です。
J-VACでは、審査報告書にしても単にチェックリストでチェックした報告書を作成するのではなく、数10枚に及ぶ審査報告書を作成し、実際の審査の現場に立ち会わなかった企業の経営者がどのような審査が実施され、どのプロセスで問題があったかを容易にご理解いただけるような審査報告書を作成しています。
そのためにはアウトプットを見る審査が必要です。状況を見て、顧客のクレームがついていれば、どういう問題が発生しているのか、それを要求事項と比較して審査しています。
アウトプットではなく要求事項から見る審査では、要求事項を満たしているかどうかで終わってしまい、どんどん不適合がなくなってきます。
アウトプットとして業績を上げる仕組みになっているのかどうかが大事であるのに、そこまでの審査をしていないからISOは経営に役立たないといわれます。企業側もそのような審査を受けているため、経営とシステムが別になり、審査の時にあわてて準備をすることになります。
J-VACでは受審企業に対しては何も準備する必要はない、現状のままを見せてもらえばいい、それで不適合があってもいいではないかといっています。J-VACが指摘する不適合に対して是正処置をしてもらえば、必ず経営に役立つマネジメントシステムになるという考え方です。
不適合の出し方、三つのポイント
本誌:不適合のとらえ方が他の機関とは違うということでしょうか。
森田:残念ながらほとんどの審査機関が出している不適合は三つのことを明確にしていません。
一つ目は、発見された事象を明確に記述することです。J-VACでは不適合をすべて私がチェックしています。その不適合が企業にとってどのように是正すればいいのかがわかる不適合の出し方なのか、ということをチェックしています。
二つ目は、どの要求事項を満たしていないのかを明確にすることです。規格要求事項だけではなく、顧客要求事項(明確にしてあるものと暗黙のものがある)、法規制、社内規定など、何を満たしていないかを明確にすることです。
三つ目は一番大事なことですが、是正処置、再発防止策をとるための方向づけを明確にすることです。方向性を示すこととは具体的な一つの方法を示すことではありません。世の中にある様々な方法を示して、その方向づけをするということです。
余剰人員など抱えていない小さな企業では、要求事項に適合するために是正処置を取ることさえ負担になります。そこで審査機関がいかに不適合に対する是正処置についてわかりやすく方向づけをし、負担なく改善できるようにしてあげることが重要です。そのためには、規格の要求事項の正しい解釈が必要です。
審査員教育の徹底
本誌:審査員の教育訓練はどのように行われていますか。
森田:J-VACの場合、JRCAやCEARなど審査員資格の要求でなく、私が審査に立会い、インタビューして審査員の力量を確認しています。そのため当社審査員は「J-VAC認定審査員」といっています。
「J-VAC認定審査員」は、まずISTO(国際規格理解度試験)に合格していることを条件としています。ISTO試験により、規格を充分に理解しているかどうかを重視しています。さらに審査員教育は徹底して行っています。研修は2ヵ月に1度の割合で実施し、自社内に専用の研修室を設置しています。当社規模の審査機関で自社の研修室を持っているところは他にはないでしょう。そしてISTO試験以外にも自社内で常に試験を実施し、スキルアップを徹底しています。
本誌:現在の審査員に対してどのような問題があるとお考えですか。
森田:日本の審査員の問題は、とにかく年齢層が高いということです。
年齢層が高い理由としては、専門性や経験を重視しすぎるということがあげられます。特に大手メーカーでキャリアを積んできた人間を重用する傾向がありますが、じつは大手メーカーほど、一部門だけでキャリアを積んできた人が多いものです。それもほとんどが品質保証や環境管理部門の出身で、設計や経営企画出身者はほとんどいません。
つまり、大企業にいたからといって経営全体がわかるとは限りません。経営がわからない人にはマネジメントシステムもわかりません。
品質保証や環境管理の高い専門性を持った審査員はたくさんいますが、専門性が高い分、視野が狭く、自分がやってきたことについては細かく指摘できても経営全体を見ることができません。このような審査員の考え方を変えていくことは大変難しく、私はすでに諦めています。
それよりも、若い審査員を育成していくことが重要ではないかと取り組んでいます。
若手審査員育成が喫緊の課題
本誌:若い審査員をどのように育成されていますか。
森田:J-VACの内部審査員はすべて若い世代でそろえています。40代が1人、後はすべて30代です。外部審査員はそこまで若くはありませんが、できるだけ若返りを図っています。
若い審査員では知識やノウハウが足りないのではないかと思われるかもしれませんが、それは間違いです。われわれが審査することは受審企業の技術ではなく組織を良くするための経営の仕組みです。経営がシステム的に動いているかどうかを見ることは勉強すれば若い審査員でも可能です。ですから若い審査員には徹底して経営の勉強をしろといっています。若い人たちはきちんと指導すれば広い視野を持つことができます。そのためには企業に行って教わってくるという姿勢を大切に、教わりながらISOの考え方を伝えていくことが経験の足りない若い審査員を育てる上で重要なことです。
日本のISOを良くするためには若い審査員を育てることが緊急の課題だと思っています。
今後の発展のためには若い世代に関心を持ってもらえる審査登録機関にならなければいけないと思うし、また制度も同様です。若い人たちに受け継いでいくだけの魅力を感じてもらえなければ、日本のISOは終焉を迎えます。
本誌:今後どのようなことが制度全体として必要ですか。
森田:企業経営にISOが役立っていない根本的な原因は、審査機関にしてもコンサルにしても認証取得のためにしか企業を審査、または支援してこなかったことです。マニュアル一つにしてもどこかで作ったものをそのまま名前を変えて使っているだけで、審査機関もそれを容認してきました。それでは経営に役立つシステムなどできるわけがありません。
そのためJ-VACでは、登録企業のコンサルタントに集まってもらい、J-VACの考え方を伝えています。審査機関とコンサルが一緒になってISOを役立つものにしていかなければならないでしょう。
またそのためには、審査機関の経営者がもっと現場を見ることです。何が起こっているのかを経営者自身がわかっていなければいけません。
ISOの要求事項はリスク管理
本誌:今、ISOを取組む企業ではどのような問題が起きていますか。
森田:ISOの要求事項はすべてリスク管理です。設計や製造で、どのようなミスをすればどのようなことが起こるのか、そのリスクを管理するための要求事項だと理解していない審査員や企業が多すぎます。
その認識がないため、ほとんどの企業が方針の立て方から間違っています。方針の立て方が間違っているから、目標を立ててもまったく企業の実態に即した目標になりません。
お客様や社会に対してどのようにリスクを管理し、責任ある企業活動を行うのかが重要で、例えば昨今の飲酒運転事故の問題がありますが、私は運送業などの審査に行けば、必ず飲酒運転の問題をどう考えるかと経営者に聞きます。ISOの要求事項に書いてないことなど問題ではありません。聞きたいことは企業として業務にどのようなリスクがあるのかを経営者が把握しているのかどうかということです。そのような重要な問題をISOの審査で聞いてはいけないということはないでしょう。
われわれ審査機関としても、認証を与えた企業でそのような問題を起こされては困ります。社会はISO認証取得企業として信用しているわけですから、審査機関もそのつもりで審査しなければいけません。
そのためには企業として強み、弱み、ビジネスチャンス、脅威を分析し、現状を理解して方針、目標を立てているかどうかを審査することが重要です。いつまでたっても不良率の削減などという目標しか立てられず、それで競争に勝っていけるのかということです。
そこが今のISOの大きな問題点ではないかと思います。
本誌:その原因は。
森田:ほとんどは規格の解釈が間違っていることです。
例えば、ISO9001に「供給者の再評価」という要求事項があります。これを定期的に供給者の再評価をしなければならないことと間違って解釈している企業がじつに多い。
この要求事項は、どのような事態が起こった場合に供給者の再評価をしなければならないか、その基準を決めておくことという意味です。つまり再評価が必要な場合とはどのような場合なのか、企業のリスク管理として把握しておかなければならないということです。
従業員10名程度の小企業が、供給者である大手製鉄会社をどのように再評価すればいいのかと困っています。その解釈の間違いを審査を通じて正してあげることが重要です。
コスト削減の姿勢を示す
本誌:最後になりますが、今後の展開についてお聞かせください。
森田:企業になるべく負担がかからないように、いかにしてコストを削減していくかも重要な問題です。ただし、コスト削減のために審査工数を減らすことは難しいと思います。それよりも審査が停滞しないように努力するようにしています。
また、遠方の審査であっても前泊は私の許可なしにはできないようになっています。私にしても新潟や山形、盛岡、名古屋辺りで朝10時から審査が開始できれば、朝一番の電車で行き日帰りしています。小さい額ですが、そのような姿勢が重要です。
また、審査員は内部・外部含めて80名ほどいますが、その評価は常に私がやっていますから、私の考え方を理解してくれる審査員をどんどん使っていきたいと思っています。その審査員も安く雇っていてはいい審査などやる気にならないでしょう。そのため相当な報酬を支払っていますが、それだけ魅力のある市場にしなければいけないと思っています。
本誌:本日は貴重なお話をありがとうございました。
(取材:アイソムズ編集室)
株式会社 ジェイ-ヴァック概要
・住所 東京都千代田区神田淡路町2-23-1 お茶の水センタービル8F・設立 2002年6月設立
・認定機関 JAB
・認証実績 品質394 環境152件(2006年6月)など
・審査員数 品質77名 環境55名(2006年9月末)など
・その他の認証 TS16949、OHSAS18001、ISO27001、ISO22000、ISO20000など
■規格解釈を間違えて苦しんでいる企業を助けることのどこがコンサル行為なのかと語る森田氏。
■表1 J-VAC登録組織件数(2006年6月末、JAB調べ)
■表2 品質・環境認証推移(JABアンケート集計より)
<アイソムズ 2006年11月号掲載>

